蝌蚪の紐掬ひて掛けむ汝が首に 林雅樹【季語=蝌蚪(春)】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

蝌蚪の紐掬ひて掛けむ汝が首に

林雅樹


俳句には一句の中で二つの事物を取り合わせる手法がありますが、句そのものの佇まいについても「取り合わせ」を感じるものってありますよね。スイートな土台にビターな香りが漂っているとか、トラッドにアヴァンギャルドなアクセントが添えられているとか、チープとシックとが均衡しているとか。わたしはクラシックとナンセンスのコンビネーションがとても好き。たとえばこういうの。

  蝌蚪の紐掬ひて掛けむ汝が首に  林雅樹

これを読んで、子供のころバケツいっぱいの蝌蚪を取ってきて、どろっと手ですくって、隣の家のナオミちゃんにあげた懐かしい思い出がよみがえりました。でも首にはかけなかった。ナオミちゃんはカエルのたまごをとても怖がってたから。と、そんな話はさておき、掲句は「首飾りを捧げる」といったきらきらしたシチュエーションをいかして、ぜひとも幼子たちの恋のメロディーとして読みたいところです。

それにしても、この似非古今集っぽさよ。いや仁勢物語か。わたしは猛烈にあほらしいことを上品な言葉で語る御仁に弱く、こういうのを見るとぞくぞくしちゃいます。もしこんな句を贈られた日には、筒井筒よろしく結婚しちゃうかもしれません。

小津夜景


【小津夜景のバックナンバー】
>>〔24〕止まり木に鳥の一日ヒヤシンス   津川絵理子
>>〔23〕行く春や鳥啼き魚の目は泪        芭蕉
>>〔22〕春雷や刻来り去り遠ざかり      星野立子
>>〔21〕絵葉書の消印は流氷の町       大串 章
>>〔20〕菜の花や月は東に日は西に      与謝蕪村
>>〔19〕あかさたなはまやらわをん梅ひらく  西原天気
>>〔18〕さざなみのかがやけるとき鳥の恋   北川美美
>>〔17〕おやすみ
>>〔16〕開墾のはじめは豚とひとつ鍋     依田勉三
>>〔15〕コーヒー沸く香りの朝はハットハウスの青さで 古屋翠渓
>>〔14〕おやすみ
>>〔13〕幾千代も散るは美し明日は三越    攝津幸彦
>>〔12〕t t t ふいにさざめく子らや秋     鴇田智哉
>>〔11〕またわたし、またわたしだ、と雀たち 柳本々々
>>〔10〕しろい小さいお面いっぱい一茶のくに 阿部完市
>>〔9〕凩の会場へ行く燕尾服        中田美子
>>〔8〕アカコアオコクロコ共通海鼠語圏   佐山哲郎
>>〔7〕後鳥羽院鳥羽院萩で擲りあふ     佐藤りえ
>>〔6〕COVID-19十一月の黒いくれよん   瀬戸正洋
>>〔5〕風へおんがくがことばがそして葬    夏木久
>>〔4〕たが魂ぞほたるともならで秋の風   横井也有
>>〔3〕渚にて金澤のこと菊のこと      田中裕明
>>〔2〕ポメラニアンすごい不倫の話きく   長嶋 有
>>〔1〕迷宮へ靴取りにゆくえれめのぴー   中嶋憲武


【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

サイト内検索はこちら↓

アーカイブ

サイト内検索はこちら↓

ページ上部へ戻る