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さざなみのかがやけるとき鳥の恋 北川美美【季語=鳥の恋(春)】

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さざなみのかがやけるとき鳥の恋

北川美美


北川美美さんの思い出を書く。

美美さんから初めてメールをいただいたのは2013年10月19日のこと。内容は攝津幸彦賞準賞の連絡と、美美さんが編集長をしていた「BLOG俳句空間−戦後俳句を読む−」内の「冬興帖」への投句の誘いだった。

当時のわたしの句歴は10日あるかないか。学校で俳句を作らされた経験がなく、攝津賞応募作品を書いたほかは「週刊俳句10句競作」に投句したことがあるだけだった。ちなみに攝津賞に応募したのは、審査員の高山れおなに会ってみたいという読者目線の動機からである。もちろん歳時記だって見たことすらない。

わたしは「私が何か書くなんて、プロの俳人の方々に申し訳ありませんから、辞退させてください」と「冬興帖」への投句の誘いを断った。ところが美美さんは、そんなこといわずに書いてみてくださいと言う。仕方がないのでおそるおそる10句書き、「この中から良いものだけ選んで使ってください」とメールで送ったところ、すぐに返信が来て「10句全部頂戴します。お送りいただいた原稿は『冬興帖』に載せずに、別枠で連載にしましょう」と告げられた。連載!?

そんなわけで、わたしは句歴10日あまりで、俳句の連載をはじめることになった。

とはいえ、もともと俳句が書きたかったわけじゃないから、はじまってしばらくは、いやだなあ、いやだなあ、と居心地が悪かった。なにより自分みたいな素人がと思うと恐縮してもしきれない。本当に連載していてもいいのでしょうか?と美美さんに尋ねもした。すると美美さんはこんなふうに言った。

「物事はタイミングですすんでいきます。また文章というのは、サイボーグのように書き続けられる人もいますが、作品はそうそうサイボーグのようなわけにはいかないでしょう。なので出来るうちに発表してくださいませ。あの作品連載は本当に前人未到な印象です。なによりも創作を楽しまれている様子が伝わってきます。小津さんの作品が俳壇に旋風を起こしてくださることを願っています。」

美美さんは、わたしの俳句に感想を述べたことは一度もなかったけれど、作品の見せ方についてはなんどか意見をくれた。そのひとつが「小津さんの原稿は横書き、メイリオがいいと思います。掲載画像を作り直してみてください」というのだ。わたし自身は縦書きのほうがしっくりくるので、横書きはすぐにやめてしまったのだけれど、メイリオは連載終了までくりかえし使用した。これがそのころの画像である。

ごらんのとおり、俳句が折れている。これを見ても、美美さんは何も言わなかった。いまにして思えば、わたしのすることひとつひとつを、強いこだわりがあってそうしているにちがいないと尊重してくれていたふしがある。実際はこだわりなんてなにもない、いや、もう少し正確にいえば、美美さんがすべてを受け入れてくれるから、わたしは自分なりのこだわりなどといったものを内省する必要がなかったのだ。もし一度でも「変わったレイアウトですねえ」などと言われていたら、わたしだって、じゃあいったいどうすればいいの?と多少なりとも考えたにちがいない。しかしそんなわずらわしい機会は一度も訪れなかった。

わたしが自分の俳句生活を、まっしろな画用紙におもいのままの絵を描くようにはじめることができたのは、まちがいなく美美さんのおかげである。画用紙をはみだしても、塗り残しがあっても、美美さんは何も言わなかった。ただ、書きなさい、好きなように書きなさい、いつか書けなくなる日が来るのだから書けるうちに、と言うばかりだった。

BLOG俳句空間−戦後俳句を読む−」は2014年9月に終刊し、それと同時に約10ヶ月に及んだ連載も終わった。あれから6年と4ヶ月。わたしはあのころと同じく、協会や雑誌には参加せず、俳壇から遠いところであそんでいる。そしてたぶんこれからも、遠いところであそぶだろう。いまのわたしは、俳句と共にある生き方という、かけがえのない贈りものを与えてくれた美美さんに、心から感謝している。

           さざなみのかがやけるとき鳥の恋  北川美美

小津夜景


【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記



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