
この薔薇のための真紅と思ふほど
今橋眞理子
掲句の「この薔薇のための真紅」という言葉の強さに驚かされました。
薔薇が真紅なのではなく、この薔薇のために真紅という色が存在していると感じるほど、作者の前にある薔薇は鮮烈だったのでしょう。
私は普段、「薔薇は赤い」と何となく認識しています。しかしこの句では、その既成の認識が逆転しています。
真紅の薔薇があるのではなく、「この薔薇」こそが「真紅」という色の本体であり、ルーツであるかのように感じられているのです。
ただ、その感動は大袈裟に語られるのではなく、「と思ふほど」という措辞によって断定を避けた柔らかな余韻に納められています。
もしも「この薔薇のための真紅でありにけり」と言い切ってしまえば、句はもっと観念的になっていたかもしれません。
しかし作者は、自らの感動を少し引いた位置から見つめています。
そのため読者の私もまた、「そんなふうに思ってしまうほどの薔薇だったのだな」と、自然にその感覚へ近付いていくことができました。
また、「この薔薇の」と限定されていることで、世界中にある無数の薔薇ではなく、作者が今まさに向き合っている一輪の存在感が際立ちます。
作者の視線は、ただ一つの薔薇へ深く集中している。
その凝視の時間が、そのまま、句の静けさになっているように思えました。
『ホトトギス』平成十二年十月号 所収
(菅谷糸)
【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。

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