萩に雨こんな日もなければ困る
中原道夫
後半の「こんな日もなければ困る」という12音は、「5・7」のリズムには当てはまるが、「7・5」に当てはめてみると、たちまち「自由律俳句」に接近する。
「こんな日もなければ/困る」と、少し間をおいたうえで「…困る」という部分が強調され、つまるところ、呟きや独白のような発話になるからだ。
実際に、この部分は内容的に、作者の「ひとりごと」、小難しくいえば内面の吐露であるから、それが七五調のリズムに収納されてしまうと、たちまち嘘っぽくなってしまう。
その「嘘っぽさ」から離反するところに、この句の巧さがある。それに駄目を押すのが、上五の「萩に雨」だ。
「萩の雨」という名詞だと、言葉の約束性が強くなりすぎてしまい、せっかくの「ひとりごと」感が損なわれてしまう。
結果として、「萩に雨(が降っている)、こんな日もなければ困る」という小説の一節のようなフィクションの世界が、立ち上がる。
ちなみに、〈萩の雨傘さして庭一廻り〉は、中村吉右衛門の句。
こちらは、型を重んじる歌舞伎役者の句だから、というわけではないが、やはり「萩の雨」のほうが合っている。
『一夜劇』(2016)より。
(堀切克洋)