【秋の季語】露草/月草 ほたる草 ばうし花

【秋の季語=初秋(8月)または中秋(9月)】露草/月草 ほたる草 ばうし花

ツユクサ科ツユクサ属の一年生植物。

正岡子規に〈牛部屋に露草咲きぬ牛の留守〉という作があり、また平井照敏に〈港区につゆくさ咲けりひとつ咲けり〉という作があるように、牛小屋でも港区でも、どこにでも咲く青い花です。

とはいえ、畑の隅や湿地、道端、小川の縁など、どこでも見かけることのできる雑草だったのも昔のことで、最近は見かけることも少なくなってきたようにも思います。

露草の花期は、蒸し暑い6、7月くらいからはじまりますが、俳句では「秋」に分類されています。「露草」という名前や(「露」は秋の季語)、別称である「月草」(「月」もやっぱり秋の季語)からの連想に寄るものなのでしょう。

歳時記ではそんな事情からか、「初秋(8月)」に分類しているものもあれば、「仲秋(9月)」に分類しているものもあれば、はたまた「三秋(8〜10月)」に分類しているものもあります。

『万葉集』のなかには、「月草」「鴨頭草」(つきくさ)を詠ったものが9首あります。

つき草のうつろいやすく思へかも我が思ふ人の言も告げ来ぬ(巻4 583)

この一首以外は、作者不詳なので、この歌を引いてみました。作者は、大伴坂上大嬢。この歌に出てくる「我が思ふ人」は、やがて結婚することになる大伴家持のこと。

移り気な彼氏に焼きもちをやく歌、でしょうか。朝顔のように、朝咲いたら昼間には萎んでしまったり、露草で染めた衣料は、色落ちしやすいこともあり、「うつろいやすいもの」の象徴として詠まれてきた植物でした。

そんな情緒的イメージも、実際の花期とは裏腹に、この小さな植物を「秋」の季語として立項するひとつの要因になっているのでしょう。

月草という名称があるだけに、「つきすぎ」には注意です…

おあとがよろしいようで。


【露草(上五)】
露草を面影にして恋ふるかな 高濱虚子
露草のをがめる如き蕾かな 松本たかし
露草に乳房なづさふ朝の山羊 相馬遷子
露草の花のあの草のこの草の上 山口青邨
露草も露の力の花ひらく 飯田龍太
露草に昔の素足濡らしけり 橋閒石
露草や寂光院へ近道を 下田実花
露草のこともなげなる咲き盛り 木附沢麦青
露草が咲きひろがりて水と空 細見綾子
露草を待つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
つゆくさと瞬きあえばちいさき身 澁谷道
露草を埋め一面に風渡る 稲畑汀子
露草の碧きひとみの中に立つ 鷹羽狩行
露草の露の目をしてこの犬は 坪内稔典
露草を愛する人と露の中 坪内稔典
露草のつゆの色こそ朝の夢 鳴戸奈菜
露草や口笛ほどの風が吹き 栗山政子
露草の露を歩みの一歩とす 山下廣
露草に色あるものの従へり 稲畑廣太郎
露草や分銅つまむピンセット 小川軽舟
つゆくさをちりばめここにねむりなさい 冬野虹
露草や手の内全部読まれたり 津田このみ
露草は足元の草踏まぬ草 篠崎央子
露草や子のさみしさのあふれそう 山澤香奈
露草のひといろに雨濃うなりぬ 安里琉太


【露草(中七)】
牛部屋に露草咲きぬ牛の留守 正岡子規
ことごとくつゆくさ咲きて狐雨 飯田蛇笏
草むらや露草ぬれて一ところ 杉田久女
山の方より露草にこぼれ雨 右城暮石
港区につゆくさ咲けりひとつ咲けり 平井照敏
裏山は露草どころ墓どころ 上田五千石
小舟より小舟へ露草を手渡す 夏井いつき
鎌の刃は露草の花つけてをり 長谷川櫂
全身で露草の道ゆきにけり 小野裕三
青色と言はずに露草の色と 杉田菜穂

【露草(下五)】
邪馬台国生まれの露と露草と 坪内稔典
数学の定理はきれい露草も 坪内稔典
薄明とセシウムを負い露草よ 曾根毅

【蛍草】
朝風や蛍草咲く蘆の中 泉鏡花
蛍草のそのやさしさへ歩みをり 加藤秋邨
朝の日の母を訪はばや螢草 永田耕衣
のたりのたりと海は死にゆく蛍草 高野ムツオ

【その他】
夢に色あり末枯の露草も 山口青邨

【自由律】
つゆけくも露草の花の 種田山頭火



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