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糸電話古人の秋につながりぬ 攝津幸彦【季語=秋(秋)】


糸電話古人の秋につながりぬ

攝津幸彦


攝津幸彦はいまだ根強い人気がある。それはなぜなのか。その理由はわかるようなわからないような、というところで、それも含めて魅力的ということなのだろう。

おそらく私は攝津幸彦の良い読者ではないと思うが、この人の句が好きな人はきっと打算抜きで俳句が好きなのだということはわかる。そしてそのことに、何かあたたかいものを感じるのである。

さて、掲句。若い人はどうかわからないが、子どものころ糸電話で遊んだ経験のある人は多いだろう。あれから何十年も経つのに、コップの中から聞こえるくぐもった声が、耳を澄ませば今でも聞こえるような気がする。

その糸電話が、ここでは「古人の秋」につながっているという。古人は、昔の人という意味だろうか。つながるのが、「秋の古人」ではなく「古人の秋」であるというところが句の景を豊かにしていて、そこが魅力だ。糸電話の細い糸の向こうに、時間も空間も超えた茫漠なる「秋」が広がっている。

そう、糸電話の向こうは秋なのだ。こちらが気怠い春、疲れた夏、折れそうな冬であっても、糸電話の糸の微細な振動を通じて古人の秋を感じることができる、そんな糸電話が欲しい。

攝津幸彦は1947年に生まれ、1996年の今日、10月13日没。掲句は句集『四五一句』所収で、『攝津幸彦選集』(2006年/邑書林)より引いた。

(鈴木牛後)


【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)『暖色』(マルコボ.コム、2014年)『にれかめる』(角川書店、2019年)

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