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真っ黒な鳥が物言う文化の日 出口善子【季語=文化の日(秋)】


真っ黒な鳥が物言う文化の日

出口善子


ものを言う真っ黒な鳥といえば九官鳥だろう。九官鳥は、熱帯アジアの森林に広く分布していて、日本には江戸時代に初めて輸入されたという。オウムやインコとともに、人間の口真似をすることで有名だ。

ただ、九官鳥は人工繁殖が国内では難しいこともあってたいへん高価な鳥らしく、私はいまだ本物を見たことはない。

真っ黒な鳥が物言う文化の日

掲句が「九官鳥」と具体的な名を挙げず、わざと「真っ黒な鳥」とぼやかしているのは隠喩としての効果を狙ってのことだろう。「文化の日」という祝日に対するシニカルな目線がそこにある。

11月3日は明治天皇の誕生日で、明治時代は「天長節」と呼ばれ、その後「明治節」となり、戦後「文化の日」と改称された。文化の日には各地で文化祭などの行事が催されるが、国レベルでは叙勲がおこなわれる日でもある。

叙勲、勲章といえば、先日行われた中曽根元首相の内閣・自民党合同葬の際、遺影の下に多くの勲章が飾られていたことを思い出す。元首相の生前の業績を称えてということなのだろうが、もはや勲章の持ち主はこの世にはいない。だとしたら、あれは誰のために飾っていたのだろうか。もしかすると、真っ黒な鳥たちのためなのかもしれない。

真っ黒な鳥は確かに物を言うのだが、それは自分の言葉ではない。だれかの真似をしているだけだ。近頃、真っ黒な鳥の声を聞く機会が以前より増えてきたと感じるのは、私だけではないように思う。

句集「わしりまい」(2005年)所収。

(鈴木牛後)


【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)『暖色』(マルコボ.コム、2014年)『にれかめる』(角川書店、2019年)

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