三人のふだんの友と月見かな 鈴木花蓑【季語=月見(秋)】

三人のふだんの友と月見かな

鈴木花蓑

「友人関係を築く」というのはかなり大変なことだ。ある研究によれば、出会ってから最初の3週間のあいだに約43時間をともに過ごして初めて、その相手を「知人」から「友人」とみなす確率が5割を超えるという[1]。さらに、その「友人」が確実に「親友」となるには、6週間で200時間以上を共に過ごさなければならないこともあるらしい。

しかし、友人関係はいちど出来上がってしまえばそれでOKというわけではない。そこからの関係性の維持もまた大変なのだ。ただし、われわれの時間は有限だから、ひとりひとりの人間関係に割くことのできる時間も自ずと限られてくる。おたがいにそれを分かっているはずなのに、相手からしばらく連絡がこないとこっちも段々と連絡をしなくなってしまう、というのはよくあることのように思う。一番仲のよい友人でさえ、十分な頻度で会えないと、親密さはわずか数ヶ月程度ではっきりと下がってしまうという[2]。

人の一生を通じた友人関係の変化を調べた、これまた別の研究においては、思春期から老年期にかけて友人の数はゆるやかに減りつづける傾向にあると報告されている[3]。友人関係の維持の大変さや、上京・結婚といった生活上のイベントがこうした傾向に関わっているのはもちろん、われわれは年齢とともに、「広く多く」の関係よりも、「少なく深く」へと友人関係を組みかえていくことを優先するようになるという学説もある。

掲句は『鈴木花蓑句集』(暁光堂、2023年)より引いた。写生における眼力がよく言及される花蓑の句群の中では、掲句は対象を正確に描ききるというよりも、出来事をそのままの調子で詠んだ、素朴な作品と言ってよいと思う。句意は明快、使われている言葉も簡単、シンプルすぎるほどシンプルな句である。

とはいえ、句が含んでいる情報には見た目以上に奥行きがある。「月見」というイベントに際しても、よい機会だからといって、いつもはあまり会わない人や遠方の知り合いと集まったりすることなく、今月、あるいは今週すでに会っている「ふだんの友」とまた同じ時を過ごす。句からはこの人たちの年齢は特定できないが、若年にしろ老年にしろ、これが(「少ない」かどうかはともかく)「深い」友人関係であることは容易に想像できる。

そして何より、このシンプルな詠みぶりが、この月見というイベントでさえも「ふだん」通りの、何ら特別でない日常の延長線上の出来事であろうことを読み手に伝えてくれる。もしかしたら三人+一人(詠み手)のうちの誰かは、「またこいつらとか」みたいなことを内心思っているかもしれないが、そういう可能性すら打ち消すぐらいナチュラルな集まりの感じが、この詠みぶりにはあらわれている気がする。

しかし、上に述べたように、友との関係をこう詠めるようになるまでにかかったであろう時間の蓄積は決して少ないものではない。この人たちは、別に「友人関係の維持のために時間を割かなければ」などとは考えておらず、あくまで自然にこうした関係性に至ったのだろうが、それは本当は並大抵のことではないのだ。特に明確な仲違いがなかったとしても、単なる時間のひらきが人と人とを簡単に疎遠にしてしまう。放っておけば大きくなってしまうその距離を長いあいだ「友人関係」にとどめておくには、「ふだん」の関係性の地道な積み重ねがどうしても必要となる。

ところがこのように、友情の難しさをどんなに細かくあげつらったとしても、掲句のシンプルさはその困難に対して盤石だ。この句の一番の良さはそこにあると思う。この盤石さが、しみじみとうらやましい。

田中木江


  1. Hall, J. A. (2018). How many hours does it take to make a friend? Journal of Social and Personal Relationships, 36(4), 1278-1296. ↩︎
  2. Roberts, S. B., & Dunbar, R. I. (2015). Managing Relationship Decay : Network, Gender, and Contextual Effects. Human nature, 26(4), 426–450. ↩︎
  3. Wrzus, C., Hänel, M., Wagner, J., & Neyer, F. J. (2013). Social network changes and life events across the life span: a meta-analysis. Psychological bulletin, 139(1), 53–80. ↩︎

【執筆者プロフィール】
田中木江(たなか・きのえ)
1988年: 静岡県浜松市生まれ
2019年: 作句開始
2023年: 「麒麟」入会 西村麒麟氏に師事
2024年: 第1回鱗kokera賞 西村麒麟賞 受賞
2025年: 第8回俳句四季新人奨励賞 受賞



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