【連載】岸田祐子の「句集ホロスコープ」【#2】『或』 大塚凱(ふらんす堂、2025年)

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【今月の1冊/今月の1句】


温室を息うつとりとゆきちがふ
『或』 大塚凱
2025年5月11日・東京都・正午
太陽/牡牛座、月/蠍座、水星/牡牛座、金星/牡羊座、火星/獅子座、木星/双子座、土星/魚座、天王星/牡牛座、海王星/牡羊座、冥王星/水瓶座


『或』は、読む前にホロスコープを作ってみた句集です。まず注目したのは、Tスクエアとグランドクロスという2つの形です。冥王星が月と水星との間にそれぞれ作る2つのスクエア(90度)と水星と月のオポジション(180度)が組み合わさってできる直角二等辺三角形がTスクエア。さらにオーブを緩めにみると、このTスクエアに獅子座にある火星が加わって、グランドクロスと呼ばれる正四角形ができます。

 スクエアは葛藤を表し、オポジションは対立を意味しますからTスクエアもグランドクロスも、緊張の強い形です。特にグランドクロスは厳しく、かつて「十字架を背負うような苦しさ」と言われていました。ただ、近年になって、「葛藤を創造性に変えてゆく」と考えられるようになりましたので、この形を上手く使えばブレイクスルーの可能性があります。冥王星の扱うものは破壊と再生、それも徹底的にやるという星。火星は情熱を扱いますから、冥王星と手をとれば、爆発的な破壊力が期待できるのです。

 月と水星のオポジション(180度)は情報量の多さも示唆しています。月の管轄は、無意識、内面、心。一方で水星は、知性やコミュニケーションを扱います。心とコミュニケーションとを考えると、会話や共感力。それが180度という強い角度で繋がるので、たくさんの会話≒情報量が多いというイメージ。事実、『或』は600句を越える収録句数。本そのものは、重さが156g、厚さが13mmほどですから、大きさや重さに反して俳句の量が多いのです。

 これらの星の配置から、『或』のテーマの一つとして、今ある会話や共感力を新しい何かに昇華させてゆく、根本から破壊して全く新しいものを再生するということが思い浮かびます。

温室を息うつとりとゆきちがふ

 閉じられた空間の中で「うつとりと」行き交う呼吸。微かに緊張があって、Tスクエアやグランドクロスの星の配置を思いました。温室の中で、息が行き違うだけのコミュニケーションは、なめらかで暖か。行き違う息には、言葉や感情を超えた繋がりがあります。

 今年の9月には『或』の批評会が開催されました。このホロスコープを持つ句集だから批評会が開催されたというのは少し乱暴です。ただ、批評会の場で交わされた会話の中で、多くの息が行き違ったことでしょう。

岸田祐子


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


↓岸田祐子さんの「ハイクノミカタ」(2025年4月〜8月連載)は、
バスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』に沿って俳句を読む企画🏀


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