降誕の夜をいもうとの指あそび 藤原月彦【季語=降誕の夜(冬)】

降誕の夜をいもうとの指あそび

藤原月彦
(句集『王権神授説』「天動説」)

宙に逆さまにつられた私の国がいもうとの指を絡まらせはしないかと凝視する。
発作のように膨れ上がったカマキリの腹部を見て、それから鎌に血がついている
ということがいもうとの4歳のときにあった。

轟々と鳴る暖炉の部屋でペルシャの赤い絨毯を撫ていると、いもうとの指が私を押し潰さんばかりに宙から降ってくる。
人差し指、中指、薬指、小指と順番に宙の天板が堕ちるとき光は真っ直ぐに差し込み、
人差し指と中指が交差するとき光はそれに従い男根の形、薬指と小指が交差するとき小鳥の形へと開く。
いもうとの指は私を押し潰さないように慎重に運ばれる。
押し潰されたとして私の飽食の腹部は詩を産むか。
暖炉の薪が少し崩れる。

銀の食器に盛られた婚姻・夢遊病・雛鳥が属していく。
白いケーキの大陸、苺や蝋燭でできた森に崖がある。
蝋燭の作り出す亡霊がいもうとを怖がらせ、私はただひたすらに祈る。
月は窓を過去のものへと変貌させ、いもうとを引き渡す。

あそび終わったいもうとは私のいもうとではなかったし、中世の絵の中の家族がこちらに微笑みかける。
目も口もOの形にひらいたまま無言になった私をおいて「いもうと」は中世へと帰っていってしまった。

雨霧あめ


【執筆者プロフィール】
雨霧あめ(あまぎり・あめ)
2002年生まれ。滋賀県出身。会社員。
よろしくお願いします。



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