【連載】岸田祐子の「句集ホロスコープ」【#3】『平面と立体』佐々木紺(文學の森、2024年)

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【今月の1冊/今月の1句】


うつとりと霧の溜まつてゆく客間
『平面と立体』 佐々木紺
2024年1月22日 東京都・正午
太陽/水瓶座、月/双子座、水星/山羊座、金星/射手座、火星/山羊座、木星/牡牛座、土星/魚座、天王星/牡牛座、海王星/魚座、冥王星/水瓶座


 水瓶座にある太陽と冥王星に目を奪われました。太陽の意味する明るい意識と冥王星の持つ深い変容性がかなりタイトなコンジャンクション(0度)で重なっているのです。星占いでは星と星が作る特定の角度に意味を持たせています。ただ、必ずしもいつもぴったりの角度ができるわけではありません。そのため許容範囲を儲けていて、この許容範囲のことをオーブと言います。オーブは使う星によっても、占う人によっても多少の違いはありますが、概ね±6度から±8度まで。ただし、この誤差が少なければ少ないほど星の影響が強く出ると考えられています。『平面と立体』の太陽と冥王星のコンジャンクション(0度)は、オーブが1° 29’と、かなりぴったりとした重なりです。

 この配置には、磁力的な魅力を持つカリスマ性があります。『平面と立体』の外観は、真っ白な紙にエンボスの幾何学模様、落ち着いた明朝体のロゴに透明なプラスチックフィルムの帯という端正なもの。一見すると穏やかでおとなしく、見る人によっては普通に見えるかもしれません。ただ、内面には強力な野心があって、他人や社会を変えたいという願望があるようです。

 もうひとつ、山羊座にある水星と火星もタイトなコンジャンクション(0度)を作っています。水星が管轄する知性や言葉が火星の持つダイナミックなエネルギーとブレンドされて、言葉は軍神マルスの持つ剣のように研ぎ澄まされています。鋭く切れの良い言葉は、人によっては受け入れ難いものかもしれませんが、その鋭利なメッセージは硬直した何かをぐぐっと前に進めることができるのです。

 また、山羊座にある水星は牡牛座に入っている木星とトライン(120度)を作っていて、この句集の言葉に哲学的で宗教的な雰囲気をもたらしています。山羊座にある火星と牡牛座にある天王星が作るトライン(120度)は、工学、航空、宇宙などに才能を発揮させる形とも言われいて、句集のタイトルになっている「平面」や「立体」という言葉に繋がりますし、幾何学的なデザインの装丁のイメージにも親しいです。

うつとりと霧の溜まつてゆく客間

 霧は、遠くから眺めれば薄い膜のように部屋を覆う「平面」に見えます。けれど、客間に溜まってゆく霧はゆっくりと「立体」としての質量を帯びてゆく。平面から立体へ、二次元から三次元への変容。それは、まるで冥王星の目に見えない力がじんわりと空間を満たしてゆくようです。

岸田祐子


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


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