【夏の季語】ごきぶり

【夏の季語=三夏(5ー7月)】ごきぶり

台所などによく出てくる不快害虫。隠語として「G」とも呼ばれる。

江戸時代は(その油ぎったような見ためから)「油虫」と呼ばれていた。また、「御器噛」と呼ばれることもあった。「ごきぶり」の名前が定着するのは、近代以降である。漢字表記には漢名の「蜚蠊」という文字が当てられる。

昆虫学者の小西正泰によると、「ゴキブリ」という名称は、『生物学語彙』(岩川友太郎、1884年)に脱字があり、「ゴキカブリ」の「カ」の字が抜け落ちたまま拡散・定着したことに由来するという。その後、学問的にも一般的にもこの名前が定着していった。

三億年ほど前の「古生代石炭紀」から生き残っているそうで、繁殖力と生命力には定評がある。しかも、驚くべきことに、彼らはこの間、ほとんどその姿形を変えなかったという。「生きた化石」ともいわれるゆえんである。絶食耐性もあり、放射能耐性もある。

また、石井象二郎の名著『ゴキブリの話』(1976年、北隆館)曰く、1匹の雌が1年後には理論上2万匹にまで増えるという。多くの昆虫が植食性、肉食性のいずれかであるのに対し、ゴキブリはその両方に加え、腐食性までも有している。

脅威にして驚異の生命体である。


【ごきぶり(上五)】
ごきぶりを押へし指を夜半洗ふ 水原秋櫻子
ごきぶりの死にゐて人をおびやかす 右城暮石
ごきぶりの世や王もなく臣もなく 本井英
ごきぶりの仮死より覚めて頼りきぬ 佐怒賀正美
ごきぶりを打ちし靴拭き男秘書 守屋明俊
ごきぶりのよぎりて穢る視野の端 村上鞆彦
ごきぶりの死や腸をかがやかせ 松本てふこ
ごきぶりと打てば絵文字の出てきたる 堀切克洋
ごきぶりの触角をもて考へる 兼城雄

【ごきぶり(中七)】
納戸神へとごきぶりの疾走す 能村登四郎
めつたうちしてごきぶりをかつ逃す 安住敦

【ごきぶり(下五)】
叩く叩く見る叩く見るごきぶりを 松本てふこ

【その他の季語と】
ごきぶりの寒夜よろめき出でしかな 鈴木真砂女



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