数へ日を二人で数へ始めけり
矢野玲奈
いつもはWeekdayのはじまりの月曜日ですが、今日は仕事を納めてゆっくり、という方も多いのでしょうか。いよいよ今年も残りわずかの数え日です。
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「数へ日」とは年内も残すところわずかとなり、指折り数えるほどの日数となる頃のこと。
指折り、というのだから十日も切れば数え日といってもいいのだろうが、実感としてはあと四、五日という感じだろう。年内に済ませておくことをこなしつつ、新年を迎える用意も抜かりなく、という年の瀬の慌しい頃だ。
そういえば、「もういくつ寝るとお正月~」という歌があったけれど、最近ではあまり聞いたことがない。この歌に歌われているお正月の風景は、もうどこか遠い世界のようだ。
歌の中では、来る年を今か今かと心待ちにしながら残りの日数を数えているが、「数へ日」のそれは、ゆく年を惜しむ感慨。
さて、掲句。
数え日を二人で数えているのだから、恋人か、夫婦か、と想像するのだが、恋人ではなんとなく甘い。
句をよく見ると、「二人で数へゐたりけり」ではなく、「二人で数へ始めけり」となっている。この「始めけり」にこの句のすべてがある。そこに、「ああ、そうか」と気づかされて、私の中で、忘れがたい一句となった。
この句の二人は、新しく所帯をもった二人。恋人時代が終わり、夫婦としてともに過ごす初めての年の瀬なのだ。
これからいくたびとなく二人で数えるであろう数え日の始まりが、この句には詠みとめられている。そこがとても心憎いな、と思うのだ。
ゆく年を惜しみつつも、夫婦という未知への始まりに寄せる思い。
「数へ日」という季語のもつ感慨に、瑞々しい風が吹き抜けていくのを感じた。
『森を離れて』(角川書店 2015)所収
(日下野由季)
【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』、『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。