【新連載】岸田祐子の「句集ホロスコープ」【#1】阪西敦子『金魚』(ふらんす堂、2024年)


いい服を着てとてもいい枯野行く
『金魚』 阪西敦子
2024年3月31日・東京都・正午
太陽/牡羊座、月/射手座、水星/牡羊座、金星/魚座、火星/魚座、木星/牡牛座、土星/魚座、天王星/牡牛座、海王星/魚座、冥王星/水瓶座 


赤い金魚がひらひらと泳ぐイラストの表紙が印象的な句集、『金魚』の太陽は牡羊座の位置にあります。12星座のトップを走る牡羊座は生命力に溢れて情熱的。一方、射手座にいる月は、自由奔放で屈託なく常にポジティブ。この2つが120度というなめらかな角度で結ばれて、お互いの良いところを引き出し合います。

 太陽は社会的な顔、月は深層心理を表すと言われていますから、表紙(太陽)と本文(月)の矛盾が少ないと考えられます。もちろん、大抵の書籍は中身のイメージが伝わるようなデザインの装丁にしますので、当たり前といえば当たり前のことですが、中にはギャップを感じさせるように作られている書籍もありますし、叢書などでしたら内容に関わらず表紙のデザインが統一されている場合もあります。そういう意味で、『金魚』には、裏表がありません

 牡牛座の場所で重なる木星と天王星は、綺麗なものや美味しいものが好きでそれがどんどん広がる感じがします。牡牛座は五感を使って経験し、現実化してゆく星座です。美味しいものを食べて美味しー! と叫ぶ。綺麗なものをみて、きれいー! と笑う。そんな素直な行動が、権威的なものや因習的なものにとらわれない豊かさに繋がります。金魚にイメージを重ねるならば、水槽の中で自由にすいすい泳いでいる様でしょうか。しかも、この金魚は水槽を飛び越えて、いずれはもっと広いフィールドへ泳ぎ出してゆきそうです。

 もう一つ、特徴的なのは、10個の星のうち、金星、火星、土星、海王星と4つの星が魚座に入っていることです。金魚は言うまでもなく、魚ですから魚座の位置にたくさんの星が集まっていることが面白いです。特に金星と海王星の重なりは、情緒的でロマンティック

 この星の配置をみる限り『金魚』の奥底には、愛と美しいもので満たされた湖が眠っています。この湖に沈むものは、現実の世界を超えた美しいものや理想です。ただ、この湖はかなり深いところにありますし、湖につながる扉には鍵がかけられています。読む人が、この鍵を時間をかけて開けることができれば、やわらかな感情を持って湖に触れるようになるのです。さらに、魚座の火星は、ハマったら沼という印象がありますので、読む人によっては、とびっきり甘く酔えるでしょう。

 私が読む限り『金魚』には、直接「気持」を詠んでいる句は、ほとんどありませんでした。これは『金魚』のホロスコープにある月と土星の90度が関係しています。土星の管轄は抑制や制限ですので、感情や気持を扱う月を土星が制限しているのです。

いい服を着てとてもいい枯野行く

この句は、控えめながらも心が弾んでいる感じがあって、自然とホロスコープ上の「気持」や「感情」というテーマに重なります。生活を豊かにすること、自由に行動すること、美しいものを楽しむことは、結局、心に繋がってゆくのでしょう。

岸田祐子


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


↓岸田祐子さんの「ハイクノミカタ」(2025年4月〜8月連載)は、
バスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』に沿って俳句を読む企画🏀


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