神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第86回】有澤志峯

ひとり酒

有澤志峯(「銀漢」同人)

平成に移り、バブル崩壊後のいわゆる「失われた10年」のただなかにあった。仕事仲間で、飲み仲間であった谷口いづみさんの会社が渋谷から神保町に移転。いづみさんから「素敵な酒場をみつけたよ」と、何度か連絡があった。その酒場が「銀漢亭」である。

見た目なかなかロックなご主人だと思えた。話をしてみると、妻の父親と同郷の駒ヶ根出身であり、私と同年輩。そんなことから、常連の仲間入りをさせて頂いた次第である。

暫くして驚きの事実を知る。なんと御主人の伊藤伊那男氏が「俳句」の世界では著名な「俳人」であること。また、常連の方々も「俳句」の世界で活躍されていることである。全く場違いな酒場に来たもんだと躊躇してしまった。

しかし、縁は異な物。伊那男さんの魅力から俳句の門下生となり、俳句の世界へと迷い込んでしまった。実父も義父も早いうちに他界してをり、父親の実像を知らない私が何故か、伊那男先生に父親像を重ねていたのは何故だったのか? それ以来、本当によく通わせて頂き、夕方早くから深夜まで酔っ払っていた。

バブル期に「志峯プランニング」を開設。空間創作家として、展示会、売り場、諸々のデザインデザインを請負えたのは、苦労時代のドリフターズ背景作画の仕事のおかげかも。好き勝手に仕事をし、さんざん遊びまくっていて、何も怖い物なく生きていた。

しかし、「俳句」の世界は自分と向き合う必要があり、「自分」の本音と立ち向かう事を素直に受け入れがたい気持ちがあった。

還暦からの遅い俳句スタート。早く追いつきたいと、がむしゃらに頑張っていたのを懐かしく思う。「銀漢亭」は、自分探しの場所だった。

現在、母親の介護、看取りを見つめる生活。仕方がないと割り切るしかありません。

俳句は自作小俳誌「ひとり酒」を制作した頃がピークだったか? もともと才覚、才能があった訳でもなく笑えます。

「銀漢亭」で得た、仲間、時間、俳句そして「自分探し」。

新型コロナウイルスは、当たり前の様に思う。だからこそ、これからの老いの時間をどう生きるのか? 志峯プランニングも休職となり「日々是好日」とは行かないかもしれないが、「ひとり酒」を味わいながら、終活を踏まえて再スタートを切りたい。

余生に「キャスティング」!


【執筆者プロフィール】
有澤志峯(ありさわ・しほう)
昭和24年福井県生まれ。平成22年「春耕」入会。「銀漢」創刊に参加。平成24年「銀漢」同人。



  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2021年5月分】
  2. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2021年9月分】
  3. ゆる俳句ラジオ「鴨と尺蠖」【第10回】
  4. シゴハイ【第2回】青柳飛(会議通訳)
  5. 神保町に銀漢亭があったころ【第38回】柚口満
  6. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2023年6 月分】
  7. 俳句おじさん雑談系ポッドキャスト「ほぼ週刊青木堀切」【#2】
  8. 神保町に銀漢亭があったころ【第69回】山岸由佳

おすすめ記事

  1. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第41回】 赤城山と水原秋櫻子
  2. 一匹の芋虫にぎやかにすすむ 月野ぽぽな【季語=芋虫(秋)】
  3. 【夏の季語】日傘
  4. 「パリ子育て俳句さんぽ」【10月15日配信分】
  5. 【連載】もしあの俳人が歌人だったら Session#17
  6. 【春の季語】春めく
  7. 何故逃げる儂の箸より冷奴 豊田すずめ【季語=冷奴(夏)】
  8. 【#26-3】愛媛県南予地方と宇和島の牛鬼(3)
  9. 笠原小百合の「競馬的名句アルバム」【第1回】2012年・皐月賞
  10. サマーセーター前後不明を着こなしぬ 宇多喜代子【季語=サマーセーター(夏)】

Pickup記事

  1. 桜貝長き翼の海の星 波多野爽波【季語=桜貝(春)】 
  2. ひかり野へきみなら蝶に乗れるだろう 折笠美秋【季語=蝶(春)】
  3. 【夏の季語】草いきれ
  4. 【夏の季語】出梅
  5. 琴墜ちてくる秋天をくらりくらり 金原まさ子【季語=秋天(秋)】
  6. 「野崎海芋のたべる歳時記」鰆のエスカルゴバター焼き
  7. 神保町に銀漢亭があったころ【第82回】歌代美遥
  8. 【冬の季語】立冬
  9. 退帆のディンギー跳ねぬ春の虹 根岸哲也【季語=春の虹(春)】
  10. 帰るかな現金を白桃にして 原ゆき【季語=白桃(秋)】
PAGE TOP