神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第87回】笹木くろえ

窓と万華鏡

笹木くろえ(「鏡」同人)

東京に木枯らし一号が吹いた日、私はついに銀漢亭のあったところへ行った。なくなったのを見たくなくて、それまでぐずぐずしていたのだ。新しい店の白く塗られたウッドデッキは、よそよそしかった。
 
銀漢亭へ最初に伺ったのは俳句を始める前。同僚だった太田うさぎさんに連れていってもらったのだった。店内は賑やかで、みな顔見知り、常連さんのようだった。うさぎさんは「俳人じゃない友達もいるんだー」などとからかわれていた。完全にアウェイな感じに圧倒され、私はぼーっとしていた。伊藤伊那男先生に御挨拶した記憶がない。小滝肇さんが俳句以外の話をして和ませてくれた。

そんな私が俳句を始めたのは自分でもびっくりだ。毎回ラッシュアワーのような湯島句会に参加することができた。自分の句が読み上げられたとき、心臓の位置を意識したのを覚えている。どきん、とした。告白でもプレゼンでも、あんな気持ちになったことはなかった。

(「小石FINAL! パーティ」にて=写真左が笹木くろえさん、右は「天為」の芥ゆかりさん

縁あって気仙沼の俳句大会へ参加、皆さんといろいろな話をしたこと。銀漢亭女子句会(実は本当の名前は知らない。銀女、と認識している)には、「堀切克子」という可愛い人も参加した時があったっけ。Oh!句会、アルパカ句会…思うように出席できなかったけれど、多くの方々とお目にかかれたのはとても楽しかった。銀漢亭は出不精の私にとって、俳句の世界へ向かって開く窓のようなお店だった。

句会の後や誰かの生誕祭のディスコアワーは凄かった。お酒が回っていたせいもあるのだろうが、万華鏡を覗いているような感じだった。窓も万華鏡も今はなくなったが、思い出は私の宝物。心の中に大切にしまってある。


【執筆者プロフィール】
笹木くろえ(ささき・くろえ)
1963年東京都生まれ。2008年俳句を始め、八田木枯の晩紅塾に通う。「鏡」同人。



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