【冬の季語】水鳥/浮寝鳥

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【冬の季語=初冬〜晩冬(11〜1月)】水鳥/浮寝鳥

【解説】「水鳥」というのは、水辺に棲息する鳥の総称。具体的には、「鴨、鳰、千鳥、都鳥、鵞鳥など」のことをいいます。また、水に浮いたまま眠っている鳥を「浮寝鳥」といいます。これらのほとんどが北方から渡ってくる、いわゆる「渡り鳥」です。

古来日本から、雁が北方から飛来すると、秋の深まりの合図でした。古今和歌集では、春の「うぐいす」、夏の「ほととぎす」と並び、季節をあらわす代表的な鳥のひとつ。

  秋風にこゑを帆にあげてくる舟は天の戸渡る雁にぞありける 藤原菅根

たしかに先頭を交代しながら遠距離を渡ってくる雁は、船のマストのようなかたちをしています。いや、むしろ船のマストが、そのような鳥のように「風」を使うことに発しているのでしょうね。

この「雁」は春になるとまた北方へ帰っていく「渡り鳥」であり「冬鳥」です。カモより大きく白鳥よりも小さい、カモ目カモ科の水鳥の総称です。

飛来地としてなのは、宮城県北部にある蕪栗沼伊豆沼の他に、北海道の宮島沼、新潟県の福島潟も雁の有名。かれらの多くは、ロシア出身。

こうした地域の多くには「白鳥」も飛来します。あるいは、「鴨」も飛来します。しかし、かれらがどういうルートを通って日本にやってくるのかは、ごく最近までよくわかっていませんでした。環境省が人工衛星をつかった調査をはじめたのは、平成17年、つまり2005年のこと。そこでわかったルートの一部は、このページから見ることができます

国にとってなぜかれらが重要かといえば、それはまずもって病原菌を運ぶ存在でもあるからです。インフルエンザウイルスは本来、カモやアヒルなど足に水かきのある水鳥、渡り鳥に感染するウイルス。これまでの主な人インフルエンザウイルスは渡り鳥から直接感染してきたものではありませんが(ニワトリやブタ由来ですが)、変異による強毒化のおそれは常にあるので、粘り強い調査が求められる分野でもあります。

さて、このように「渡り鳥」はグローバルで、ダイナミックで、しばしばポリティカルでさえある対象なわけですが、しかしいったん渡ってきて水辺でのんびりしている「水鳥」は、いわば芸能人が正月にハワイにいくようなもの。

人間は寒い寒いといって外に出たがらないのに、沼や湖を賑やかしている鳥たちは、外敵に襲われることも少ないから、のんびりと水浴びをしたり、寝ていたり。古来、浮寝鳥は「憂き寝」との言葉遊びで詠まれてきたものの、俳句では荒涼とした冬の景のなかの賑やかさ、あるいはのんびりとした感じを詠むことが多いようですね。

【関連季語】鴨、白鳥、千鳥、鳰、鶴、冬鷗など。


【水鳥】
水鳥やてふちんひとつ城を出る  蕪村
水鳥のどちへも行ず暮にけり 一茶
水鳥や氷の上につぶらなる 高濱虚子
水鳥水に浮いてゐ夫人はこれにはかなはないと思つても 中塚一碧樓
れいろうとして水鳥はつるむ 種田山頭火
水鳥のたむろしてをり夜も見ゆ 相生垣秋津
水鳥の聲のかたまり暮天冴ゆ 高田蝶衣
水鳥の夕日に染まるとき鳴けり 林原耒井
水鳥の死や全身に水廻り 村上鬼城
水鳥や夕日きえゆく風の中 久保田万太郎
水鳥に投げてやる餌のなき子かな 中村汀女
水鳥は百万石の畦せせる 阿波野青畝
水鳥を見る人中に宣教師 高野素十
水鳥の水掻の裏見せとほる 山口青邨
水鳥や明日は明日はと人はいふ 星野立子
水鳥の食はざるものをわれは食ふ 阿部青鞋
水鳥の夢宙にある月明り 飯田龍太
水鳥や別れ話は女より 鈴木真砂女
水鳥のしづかに己が身を流す 柴田白葉女
水鳥の足舌の如く水の面に触れぬ 高浜年尾
水鳥の水をつかんで翔び上り 深見けん二
水鳥の死してなほ浮くみちのくは 柳生正名
水鳥の熟寝を誰もうたがはず 鷹羽狩行
水鳥の割り込むほどの数となる 鷹羽狩行
水鳥に瞑る昼のありにけり 宇多喜代子
水鳥の和音に還る手毬唄 吉村毬子
水鳥の月夜も道をつくりをり 吉田鴻司
たましひも洗ひ立てなり水鳥は 宮坂静生
愛人を水鳥にして帰るかな あざ蓉子
人間はぞろぞろ歩く浮寝鳥 田丸千種 
水鳥を数へゐる間の夕明り 上田日差子
水鳥や夢より怖きものに風 夏井いつき
水鳥のおしりの電気つけてみる 三宅やよい
一日の終はり水鳥はなやかに 浦川聡子
水鳥の泥をせせりて汚れなし 岩田由美
水鳥や洛北の雲おそろしく 岸本尚毅
千里来て水鳥の白汚れなし 藤井啓子
水鳥のいくつも浮かびカプチーノ 彌榮浩樹
水鳥や椅子にある人みな睡り 依光陽子
水鳥の目を流れゆく水ばかり 杉浦圭祐
水鳥の何かさがしに離れゆく 如月真菜

【浮寝鳥】  
くるくると堀江の鴨の浮寝かな 支考
初雪の夢や見るらん浮寝鳥 正岡子規
燦爛と波荒るるなり浮寝鳥 芝不器男
羽摶きて覚めもやらざる浮寝鳥 高浜虚子
浮寝鳥うつゝに尾振る一羽あり 鈴木花蓑
水尾ひいて離るゝ一つ浮寝鳥 高野素十
この旅の思ひ出波の浮寝鳥 星野立子
いつとなくたがいちがひの浮寝鳥 阿部青鞋
しばらくは塔影に入る浮寝鳥 桂信子
茄で卵むけば日向に浮寝鳥 桂信子
浮寝鳥波来て尻のあがりけり 石田勝彦
ふしあはせなど今更に浮寝鳥 能村登四郎
浮寝鴨数ふるたびに数増ゆる 右城暮石
筑波嶺のいよいよとがり浮寝鳥 沢木欣一
浮寝鳥金銀の星待ちてをり 皆川盤水
浮寝鳥覚めて失ふ白ならむ 後藤比奈夫
まるき目を時に光らせ浮寝鳥 深見けん二
浮寝鳥また波が来て夜となる 寺山修司
いくつかは貼絵の遠さ浮寝鳥 鷹羽狩行
山影を日暮とおもひ浮寝鳥 鷹羽狩行
浮寝鳥おのれを消してゐるつもり 鷹羽狩行
靄の立つところに残り浮寝鳥 鷹羽狩行
餌の足ると餌の足らざると浮寝鳥 鷹羽狩行
浮寝鳥同心円を出でざりき 柴田奈美
想あたためてゐるやも知れず浮寝鳥 西嶋あさ子
麻酔よく効きて浮寝の鴨のごと 大石悦子
浮寝鳥見えたる国はわたしかな 攝津幸彦
読んでゐるときは我なし浮寝鳥 田中裕明
さめてまた一と聲浮寝鳥のこゑ 田中裕明
正午すでに暮色の都浮寝鳥 田中裕明
浮寝鳥流されさうで流されず 中嶋秀子
出汁昆布の箸をつるりと浮寝鳥 山口昭男
水底の藻の暮れ果てし浮寝鳥 長谷川櫂
上空に使はぬ空気浮寝鳥 正木ゆう子
ともしびに片寄せられて浮寝鳥 片山由美子
しばらくは羽を忘れて浮寝鳥 西宮舞
浮寝鳥深眠りにて嵩減りぬ 小林貴子
浮寝鳥よりも静かに画架置かれ 村上鞆彦


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