言の葉の形のやうな息白し 藏本翔【季語=息白し(冬)】

言の葉の形のやうな息白し

藏本翔

冬の朝、外に出て息を吐くと、白いものがふっと立ち上がります。
その瞬間、自分が今、確かに息をしていることを目で見ています。
白い息は、形を持ったかと思うと、すぐに崩れ、空気の中へ溶けてしまい、そこにあったはずなのに、次の瞬間にはもうありません。

「言の葉の形のやうな息白し」と詠まれた白い息は、言葉そのものではなく、もしかしたら、声にもならず、意味を持つ前の、ただの気配のようなものかもしれません。
言葉が生まれる直前に、かすかに現れては消えてしまう、その姿に似ています。

私たちは日々、いくつもの言葉を口にしていますが、発した言葉が、そのままの形で相手に届くことは、ほとんどありません。
言葉は空気の中に放たれた瞬間から、少しずつ変わり、受け取られ、やがて消えていきます。
白い息が、二度と同じ形では現れないように。

息をすることは、あまりに日常的で、ふだん意識することはありませんが、息が白く見えるほどの寒さの中では、その営みが、急に輪郭を帯びてきます。
吐いた息を見つめながら、言葉になる前に終わってしまった思いや、声にすることのなかった気配が、胸の奥に残っていることに気付かされるような一句です。

形にならなかったものは、記録にも残らず、すぐに忘れられてしまいます。
消えてしまう白い息の、その一瞬の立ち上がりに、言葉の始まりと終わりが、そっと重なって見えてきます。

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




【菅谷糸のバックナンバー】
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