若布刈舟磯の香りも引き揚げて 児嶋貴和【季語=若布刈舟(春)】

若布刈舟磯の香りも引き揚げて

児嶋貴和

先日、鎌倉の浜辺で、若布漁から戻ってきた若布刈舟を見ました。
若布はすぐに大釜で茹で上げられ、流水で冷やされ、次々に干されていきました。
若布の季節が始まっています。

掲句を読んで、私の心に残ったのは「磯の香りも引き揚げて」という措辞です。
浜に漂う若布の匂いと共に、若布刈舟を見た作者の感動が素直に真っ直ぐ伝わってきます。

磯に立つと、海藻の青い匂い、潮の湿り気、濡れた岩や砂の気配、生き物など、様々な匂いが混ざり合って感じられます。
私たちが磯で嗅いでいる匂いは、広い海の匂いのほんの一部なのかもしれません。

「磯の香り」の奥には、沖へ続く海の広がりが感じられます。
若布が生息している海の中の混沌とした匂いを、若布刈舟はまとっていたのでしょう。
若布刈舟は、背後に広がる春の海の豊かな気配までも、丸ごと浜へ運んできたように思われます。

引き揚げられたのは若布ですが、「磯の香りも引き揚げて」という措辞から、海の中の様々な匂いがふっと立ち上がってくるように感じられる一句です。

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




【菅谷糸のバックナンバー】
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