皆出かけスポーツの日の大あくび 葛原由起【季語=スポーツの日(秋)】

皆出かけスポーツの日の大あくび

葛原由起

明日から三連休ですね。昔は十月十日が「体育の日」でしたが、今では十月の第二月曜日が「スポーツの日」。秋の空の下、多くの人が外に出て体を動かし、にぎやかな活気に包まれる祝日です。

けれども掲句が切り取ったのは、その喧騒とは正反対の場面でした。
「皆出かけ」とあるので、家族や仲間は外へ向かい、残された一人が、ぽつりと大きなあくびをしているのです。
この平凡な場面の奥に、静かな尊さが息づいていることに気づかされます。
大あくびが生まれるのは、緊張のない、平和な時間の流れの中です。不安や緊張の続く日々の中では、人はのんびりあくびをすることもできません。
皆が出かけた後の空白の時間に流れているのは、何でもないようでいて、実は失われやすいかけがえのない日常の時間ではないでしょうか。

この句にあるのは、生活を見つめる静かな眼差しです。平明な俳句はしばしば「軽すぎる」と誤解されることがありますが、そうした誤解の先にこそ、日常の尊さが浮かび上がることがあります。

「皆出かけスポーツの日の大あくび」。その光景をありのままに留めた一句から、私は「今この瞬間にある安らぎ」へと静かに思いを巡らせました。
写生として表現された言葉以外の余白の部分に、この句の魅力が息づいているように思います。

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




【菅谷糸のバックナンバー】
>>〔1〕ありのみの一糸まとはぬ甘さかな 松村史基
>>〔2〕目の合へば笑み返しけり秋の蛇 笹尾清一路
>>〔3〕月天心夜空を軽くしてをりぬ 涌羅由美
>>〔4〕ひさびさの雨に上向き草の花 荒井桂子
>>〔5〕破蓮泥の匂ひの生き生きと 奥村里

関連記事