ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま
飯田蛇笏
明日、7月12日は、湘北高校バスケ部副キャプテン、木暮公延の誕生日。そして、その日はバスケ練習会がある。つまり、木暮くんバースデー練習会ということだ。明日まで、体調を崩さないよう注意して過ごす。当日は、木暮くんを称えて、こっそりスリーポイントシュートも試したい。
湘北にとって初出場となるインターハイが始まった。開催地、広島に向かう新幹線の中で、初戦の相手、大阪の豊玉高校と遭遇する。対戦前からばちばちに火花を散らす両校の選手たち。湘北のメンバーは、宿泊先の温泉旅館に到着しても、明日の試合を前にそれぞれが落ち着かない気持ちでいる。宮城は温泉に浸かりながら、「明日は ブッつぶしてやるからな…」と闘志を燃やし、花道は晴子に電話をし、流川は明日に備えて眠る。キャプテンの赤木は、緊張した面持ちで、「三井……」「お前中学のとき緊張したか」と、浴衣の袖を肩まで捲った三井に声をかける。「こんなの初めてだ…」「震えが止まらん」(新装再編版15巻43〜45ページ)。
ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま
「ゆかた(浴衣)」は、湯帷子の略で、かつては、入浴の際に用いた主に木綿の単衣の着物のこと。現在は、外出する場合にも着るし、寝間着として温泉旅館で用意されていることもある。この句は、「とけたる帯を持ちしまま」とあるので、寝間着として着た浴衣のことだろう。「とけたる」という言葉には、帯がほどけ、とろんと着崩れた姿の他に、起き抜けのまどろみも含まれている。特に、「ゆかた」と「とけたる」をひらがなにしたことで、ゆったりした感じが増し、温泉となれば、湯のなめらかさまでが伝わる。
作者は、飯田蛇笏。高浜虚子に師事したホトトギス同人。「蛇笏賞」は、蛇笏の遺徳を敬慕して1967年に設立された。この賞は、前年1月から12月の間に刊行された句集から、最も優れた業績を示した句集に贈られる。2025年、第59回蛇笏賞は、ホトトギス同人、三村純也の『高天』が受賞した。
豊玉との対戦は、91対87で湘北が2回戦に駒を進めた。試合中、「エースキラー」と異名を持つ豊玉のキャプテン南の肘打ちで流川は左目を負傷する。その後も豊玉のラフプレイが続く苦しい展開の中で、流川が執念のプレイで反撃し、花道もシュートを決めて掴んだ勝利だ。そんな夜は、ゆっくり温泉に浸かって疲れを癒し、浴衣でくつろいでほしい。
(岸田祐子)
【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。
【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
〔14〕明日のなきかに短夜を使ひけり 田畑美穂女
◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。