彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に
今井千鶴子
湘北高校の校舎のモデルとなった学校を見に行ってきた。休日だったけど、部活の生徒が練習をしている風景が楽しい。しかも、校庭にバスケットボールが転がっていて、ますます妄想が膨らむ。裏門近くの駐輪場には、流川の自転車が停まっていた(と思う)。
スラムダンクが好きなもう一つの理由は、恋愛要素がほとんどないということ。晴子が片思いしている流川は、女性に大人気で本人非公認の「流川親衛隊」というファンクラブがあるほどなのだけど、流川本人は彼女たちに全く関心を示していないため、恋愛エピソードはひとつも出てこない。でも、高校生であれば、恋愛感情を伴うやりとりがあるのは珍しいことではないし、恋愛に限定しなくても、憧れとか尊敬とか、そういった対象として、その人を知りたくなるということはよくある。
彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に
作者は、今井千鶴子。ホトトギスの同人で、高濱虚子の口述筆記を行うなどした。
「目を薔薇に」、目を薔薇に移した、つまり視線を薔薇に落として、聞く心づもりをする姿だろう。ところが、私には、彼を見つめる瞳が薔薇の花になっている人物が見えた。「目を皿に」さながらに、「目を薔薇に」だ。私は、漫画的な表現で目が薔薇の花の形になっている人を想像したけれど、実際にそんな人がいたらそれはホラーなので、うっとりした瞳とかそんな感じだろう。具体的なスラムダンクの場面で言えば、新装再編版7巻224~225ページの流川を見つめる晴子のまなざし、ハルコビジョンなどは、薔薇こそ描かれてはいないが「目を薔薇に」という雰囲気だ。
私が「彼のことを聞いてみたくて」と思う人物は、藤間健司。藤真のことを考える時、私自身は「目を薔薇に」はしないけれど、何度漫画を読み返しても、いったい何者なの? という疑問があって、そういう意味でとても気になる選手だし、神奈川県No.2の実力を誇る翔陽高校バスケ部の主将であり監督でもあることを思えば、多くの人たちからの視線を集める選手であることは間違いなく、目を薔薇にして藤真を見つめる人も少なくない。また、藤真の持つ熱いプレースタイルやカリスマ性には赤い薔薇が似合う。
藤真の疑問その1は、インターハイを狙うような強豪バスケ部で高校生が監督を兼任するようなことがあるのかということ。これについては、バスケ初心者の私でもさすがに最初から不思議に思っていて、バスケに詳しい人に聞いてみたのだけど、普通ではまずあり得ないとのこと。まあ、そうだろう。ただ、監督が突然亡くなってしまったとか、そんな不測の事態があって、代わりの人がいなければ、仕方ない、ここは選手兼監督でいこう。藤真よろしく頼む。というようなこともあるかもしれない。
その2は、なんで後半の14分しか試合に出なかったのかという疑問。最初は、監督を兼任しているからなのかなとも思っていたのだけれど、バスケでは、選手の中にも監督的な役目を担う人がいて、試合中にコートの中で指示を出したりすることは珍しくないと教えてもらった。それを聞いて、そういうことなら、ベンチにいないで試合に出ればよかったのにと思った。最初からベストメンバーで戦えば勝てたかもしれない。
(岸田祐子)
【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。
【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。