「けふの難読俳句」【第10回】「信天翁」


信天翁(あほうどり)

レベル ★★★★

使用頻度 ☆☆☆

<ジャンル> 生物、鳥

<類語>沖の尉、沖の大夫、海鵝、大鳥、巨鳥


【例句】

耳つくのそれらでもなし信天翁(あほうどり) 正岡子規

日にいちど入る日は沈み信天翁(あほうどり) 三橋敏雄

信天翁殖ゆるや二月風廻り(ニンガチカジマーイ) 渡嘉敷皓駄

あはうどりだけが見てきし夕焼こそ 山﨑照三


「信天翁」と書いて「あほうどり」と読みます。そのネーミングのおかしさから、見たことはなくても、名前は聞いたことがあるという方がほとんどのはず。こんな鳥です。

その名の由来は、のろまで捕獲が容易であるため。英語でいうと、ゴルフ用語でも知られるアルバトロス(Albatros)となります。「阿呆」なんて呼び方は、日本固有のものなので、味があるという見方もあるでしょうけれども、一方では鳥がかわいそうだということで、山口付近での古名「オキノタユウ」を復活させようという主張もあります。羽ばたかずにゆったりと優雅に飛ぶ鳥の特徴をうまくとらえています。

アホウドリは全長 92cm、翼開長(全幅)2.4m 、体重は約7kg にもなる大型の海鳥。

繁殖期の10月から5月で、親鳥は約4か月ほど、雛に餌をあげて、5月ごろに雛を残して繁殖地を去り、北部北太平洋を目指して渡りの旅に出ます。俳句の「巣立鳥」(春の季語)とは微妙に時期がずれますが、飛び方を覚えたアホウドリ・ジュニアは、やがて海に出て、徐々に島から離れ、やはり北部北太平洋に渡って行きます。

さて、問題の「信天翁」という表記。もともと、中国では「アオサギ」を指していたそうですが、これを明治初期に日本人が流用(誤用?)して、それが中国に逆輸入されたのだとか。字解するなら、「天に(まか)せて一日中同じ場所で魚を待ちつづけている翁のような鳥」という感じでしょうか。

アホウドリ 『梅園禽譜』毛利梅園画 天保10 (1839) 序自筆本 1帖

ちなみに、江戸時代には数百万羽が方々に生息し、しばしば本州や九州にも飛来していたというアホウドリ。現在では、島まで出なければ出会えない鳥になってしまいました。


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