【秋の季語=三秋(8月〜10月)】梨
【解説】秋の代表的な、しゃりしゃりとした果物の一つ。
「梨の花」は、春の季語。
【梨(上五)】
梨の肉にしみこむ月を噛みにけり 松根東洋城
梨をむくおとのさびしく霜降れり 日野草城
梨食ふと目鼻片づけこの乙女 加藤楸邨
梨剥くと皮垂れ届く妻の肘 田川飛旅子
梨もいで青空ふやす顔の上 高橋悦男
梨剝けば遥かを遊ぶ波の音 小檜山繁子
梨を剝くたびに砂漠の地平線 岩淵喜代子
梨を剥く一日すずしく生きむため 小倉涌史
【梨(中七)】
梨園の番犬梨を丸齧り 平畑静塔
大いなる梨困惑のかたちなす 和田悟朗
赤沼に嫁ぎて梨を売りゐたり 佐藤鬼房
想定外妻に梨剥く晩年など 的野雄
二十世紀ちふ梨や父とうに亡き 前田りう
さりさりと梨むくゆびに朝匂ふ 清水 昶
ざりざりと梨のどこかを渡りゆく 宮本佳世乃
薄く薄く梨の皮剥くあきらめよ 神野紗希
【梨(下五)】
小刀や鉛筆を削り梨を剥く 正岡子規
孔子一行衣服で赭い梨を拭き 飯島晴子
ずっしりと水の重さの梨をむく 永六輔
雲ひしめく夜の山脈梨剥けば 齊藤美規
指の股つめたく流れ梨の水 松王かをり
五つずつ配れば四つ余る梨 箱森裕美
友の子に友の匂ひや梨しやりり 野口る理
体温はたましいの熱梨を食う 越智友亮