
【春の季語=仲春-晩春(3-4月)】夏蜜柑
俳句では「蜜柑」が冬の季語とされているが、夏蜜柑(なつみかん)は、実った果実が冬を越して春が食べ頃となる。明治に入り、士族救済の一案として旧萩藩士・小幡高政の尽力で1876年より夏蜜柑の経済栽培がはじまったことから、山口県・萩市の特産品となっている。

その名から夏の季語に分類する歳時記もあるが、「ホトトギス」系の歳時記などでは、春の題とされている(「きごさい」などでは初夏としている)。もともとこの種は、秋になった実の酸味が強すぎるため、昔は酢の代用品や観賞用として使用されていたが、のちに春先まで木の上で熟成させてから収穫したり、冬まで待って収穫し貯蔵することで酸味を抜き食べやすくするなど工夫をしてきた経緯がある。夏蜜柑で最初でマーマレードを作ったのは福沢諭吉。「甘夏」は、夏みかんの枝変わりであるが、酸味が少ないのでそのように呼ばれるようになった。現在は品種改良によりそれほど酸は強くない。
俳句では、何といっても〈夏みかん酢つぱしいまさら純潔など〉(鈴木しづ子)が有名であり、この句も秋、冬、春と季節が推移してきたイメージが背景にあると言ってよい。

【夏蜜柑(上五)】
夏蜜柑女子クラス乗せ帰る汽車 秋元不死男
夏蜜柑剝きし指より酢つぱき吻 坂内里桜
【夏蜜柑(中七)】
息みたし夏蜜柑ほど漲るまで 宮津昭彦
没日いま夏蜜柑いろ硝子はこぶ 桜井博道
妻の顔夏蜜柑剥くはや酸かり 森澄雄
【夏蜜柑(下五)】
海渡りたし爪深く夏蜜柑 中拓夫
老友と居れば幼名夏みかん 百合山羽公
墓石に映つてゐるは夏蜜柑 岸本尚毅