
輪郭のやがてあひまひ大根煮る
岡田ひろこ
おでんに風呂吹、ぶり大根…冬の食卓には欠かせない煮大根。子どもの頃はおでんなら玉子や練り物、ぶり大根なら鰤の方が好きだったような気もするが、それらの旨味をたっぷり含んだ大根の方が主役だと気付いたとき大人の階段を登るのだろう。そんな大根も生の一本丸ごとの状態ではなかなかの存在感で、煮るのは結構手間がかかるものだ。煮崩れぬように下ごしらえをした後で弱火にかけ、一度冷まして味を染み込ませていく。安価かつシンプルな調理法ながら丁寧に作られたひと皿はまさにご馳走そのものだ。
掲句はまさに大根をコトコト煮ている光景。出汁との境界線を引くように真っ白だった大根も、輪郭が曖昧になるほど柔らかく煮えそろそろ完成も近いのだろう。長時間コンロは埋まるし時短レシピの対極を行く面倒な料理であることは確か。しかし箸先で簡単に切れるほど柔らかく煮えた大根を、ふうふう吹きながら口に入れれば溢れる甘味と出汁の香り。もうすぐこの楽しみが待っている。調理過程を知っているほどこの句に食欲が刺激させることだろう。
(雲の峰2025年11月号掲載 第25回雲の峰新人賞 「大根煮る」より)
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さて今週は私が所属する「雲の峰」の先輩かつ、「四季の料理帖」参加者の岡田ひろこさんの句をご紹介しました。しみしみお出汁の煮大根を作る過程が詠まれた台所での一句。少し時間はかかりますが大根、煮てみませんか?
材料は大根1本、米のとぎ汁、出汁昆布1枚にかつお節ひとつかみ。(顆粒出汁や出汁パックでも可)塩または薄口醤油で味付けすると、大根の透き通った仕上がりが綺麗です。
まず大根を3cm幅の輪切りにし皮を剥く。この時、角を面取りし表面に軽く十文字の隠し包丁を入れると煮崩れ防止になります。
次に大きめの鍋にまず大根が浸るくらいの米のとぎ汁を入れて火にかけ、沸騰したら弱火に落として約15分。竹串を刺してスッと通すようになったらザルに上げて水気を切ったら下ごしらえはおしまいです。ちょっと手間だな〜という時は直接だし汁へ大さじ2程度の米をそのまま加えて煮てくださいね。
下ごしらえが済んだら再び鍋に大根と昆布、そして大根が浸るくらいの水と塩または薄口醤油を適量加え強火にかける。(時短の場合はここに米を入れてください)
沸騰したら弱火にし、コトコト煮込むこと約20分。大根の表面が透き通ってきたらかつお節を入れましょう。この時沸騰させるとかつお節の臭みが出てしまうので煮立たせないようにご注意を!5分程度煮たら火を止めてかつお節を取り出し、後は味が染みるのを1〜2時間ほどゆっくり待つだけ。
味が染みたら再び温めて、味噌だれなどを絡めて召し上がれ!

ご飯やお酒のお供としてもう少し味のパンチが欲しいなという時は、鯖缶をほぐして大根の上にのせレモンまたは柚子をたっぷり絞って好みで七味を振ったアレンジをどうぞ!鯖の旨味と柑橘の香りが加わり、より力強い味わいに。こちらは冷たい前菜としてもおすすめです。

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シンプルな材料で大根の旨味を存分に引き出した煮大根。下ごしらえや煮る時間に少し手間はかかりますが、存在感ある大根が透き通っていく様子を眺めるのは案外楽しいものです。完成品を味わいつつ詠む楽しみもありますが、一連の調理過程を体験することで得られる発想もきっとあるはず。
上のレシピはあくまでも一例なので、分量を作りやすい量に変えるほかアレンジも自由自在です。顆粒出汁や水煮のような加工食品で時短したっていいじゃない、浮いた時間を句作に回せるし。
師走も早くも下旬に入ろうとしています。これから忘年会やクリスマス、お正月とご馳走が続いてお腹が疲れた時はお試しくださいね!
(佐野瑞季)
【執筆者プロフィール】
佐野瑞季(さの・みずき)
1997年静岡県生まれ
「雲の峰」所属 超結社句会「四季の料理帖」代表
第17回鬼貫青春俳句大賞
夢はかまくらの中でお餅を焼くこと
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