【夏の季語=三夏(5月〜7月)】扇子
仰いで風を起こす折りたたみ式の道具。「扇」ともいう。
扇子の「子(す)」は、唐宋音(主に平安時代中期から鎌倉時代にかけて、宋・元時代の中国語による漢字音)。14世紀後半の「太平記」などに用例が見られる。もともとは儀式のためのもので一般人は用いることができなかったが、鎌倉時代に、庶民の使用が許可され、のちに能・演劇・茶道にも取り入れられ、広く用いられるようになった。落語の小道具のひとつでもあるが、〈扇子にて酒くむ花の木陰かな〉は、芭蕉45歳のときの句で、『笈の小文』所収。
俳諧における初期の用例としては、「桜川」に〈風を出す通力えたるせんすかな〉(一雪)がある。
【扇子(上五)】
扇子低く使ひぬ夫に女秘書 藤田直子
扇子の香女掏摸師の指づかひ 佐山哲郎
【扇子(中七)】
いろいろに扇子弄れど言ひ憎し 日野草城
なかば閉ぢ扇子の白さ改まる 鷹羽狩行
【扇子(下五)】
美しき嘘漆黒の絹扇子 木田千女
五六本出てきてどれも古扇子 細川加賀
【ほかの季語と】
まくなぎを払ふ扇子の香りけり 日原傳