
【第8回】
有馬朗人の新年詠つづき
先週の「あかねさす近江の国の飾臼」は近江での句であり、こんな句を見ると、その土地への旅情がかきたてられるものである。特に長崎のお正月には興味を持っているが、その理由としては朗人の次の句がある。
長崎の坂動き出す三日かな 有馬朗人
長崎は「ぽっぺん」、「踏絵」など独特の新年の季語があり、いずれは正月に吟行に行ってみたい土地の一つである。長崎は坂の多い土地であり、また歴史的にも多国籍の人々が活発な活動をしてきた土地でもある。掲句は、三日にもなると人が町へ出てきて、長崎の坂を活発に行き来している様子が「坂動き出す」という比喩で活写されている。私が有馬先生に師事しはじめたころの句であり、掲句についてはリアルタイムで記憶しているが、私が俳句の可能性について深く感じた契機となった一句でもあった。ふつうは、坂を行く人や物を描写したくなるところ、大きく構えて「坂動き出す」としたことで、正月三日というものの本質を鋭く捉えることに成功している。
他にも朗人には、有名な「光堂より一筋の雪解水」、「紅の櫛ふところに阿波遍路」なども地名がよく効いている句がある。日本回帰の句を模索していた若き日の朗人にとって、日本とは地域性と歴史に支えられているのだという認識があったと推察される。日本における地域性多様性が薄まりつつあるということは、日本そのものが薄まりつつあるということなのだろう。それは俳句という文芸も薄まりつつあるということに繋がるのではないか。旅先でついチェーン店に入ってしまう私としてはおおいに危機感を感じつつも、有馬朗人先生の弟子として、堂々とした日本の句も詠み継いでいきたい思った。
2か月間、ご愛読ありがとうございました。
(庄田ひろふみ)
【執筆者プロフィール】
庄田 ひろふみ(しょうだ・ひろふみ)
昭和51年生、平成11年より天為同人
令和7年 第一句集「聖河」上梓
