【第5回】ワイキキや黴臭きものなにもなし
千野千佳(「蒼海」)
海外旅行に行けなくなって1年が経ちます。この先、いつ行けるようになるのかもわかりません。
そこでいちばん最近の(といっても8年以上前ですが)海外旅行である2012年12月に友達と行ったハワイを思い出し、俳句を詠んでみることにしました。当時は俳句をやっていなかったので、記憶だけで俳句が詠めるのか挑戦してみようと思います。
当時の日記を引っ張り出してきました。こんな日記です。
12月14日(金)
朝5時に起きてエッグスンシングスに行く。うしろにいた日本人夫婦の夫のほうが、「エッグスンシングス……卵料理あれこれってところかな」と言っていた。ホテルに帰ってウトウトしていたら、「天国の海」に行くオプショナルツアーの集合時間に5分遅刻した。「天国の海」ツアーのスタッフが明るすぎて馴染めなかった。「天国の海」は海の真ん中が浅瀬になっている不思議な場所。近くのクルーズ船に、野球の巨人の選手たちが乗っていた。そういえば2年前にハワイに来たときは、巨人の元木を見かけた。ハワイで巨人のひとを見かける確率は100%だ。
日記に書かれていることは出来事が中心なので、俳句の材料になるようなディテールの記載は少なく、俳句を作ることはなかなか難しいです。
そこで、夏の例句をたくさん読むことにしました。日記から惹起された記憶と融合させて俳句を作りました。事実を単純化し、多少のフィクションも加えました。
うららかに日付変更線超ゆる
日本の12月は冬ですが、ハワイの12月は夏といってもよいでしょう。日付変更線のあたりは間をとって春の季語を使いました。
空港に果実のにほふ朝ぐもり
ホノルル国際空港はいい匂いがしました。友達が「ハワイって熱海っぽいね」と言っていました。
カラカウア通り大きなサングラス
ワイキキのメインストリート「カラカウア通り」。日本ではちょっと恥ずかしいサングラスもハワイではかけることができます。
籐椅子や日本語メニュー渡さるる
英語ができなくても困らないのがハワイです。
炎天下ステーキを噛みちぎりけり
アメリカンな硬いステーキも美味しいです。
二人ゐてどちらが先に水着濡らす
わたしも友達も日本では海に行くタイプではありません。
水着きて七色のかき氷かな
季重なりです。
カクテルの淵に噛ませるメロンかな
ビーチの見える席でカクテルを飲みました。
ワイキキやサンダルのままシャワー浴ぶ
ホテルで素足になれないのは落ち着かないです。
ワイキキの夜風に水着干しにけり
なかなか乾きませんでした。
星涼しホテルのペンでかく日記
ホテルのメモ帳に日記を書きました。
朝凪や砂にめりこむヨガマット
早朝のビーチヨガにチャレンジしてみました。身体のかたい自分には苦行でした。
ゆかりなき大学あるくサングラス
時間があったのでハワイ大学に行きました。日本の大学に似ていました。
日傘さすここワイキキの一丁目
「目刺し焼くここ東京のド真中」(鈴木真砂女)へのオマージュのつもりです。ハワイでは日傘をさしているひとは珍しいですが、友達は堂々と日傘をさしていました。
ワイキキや黴臭きものなにもなし
日本人がこれほどまでにハワイが好きなのは、日本と違ってカラリとしているからだと思います。ああハワイに行きたいです。
【執筆者プロフィール】
千野千佳(ちの・ちか)
1984年新潟県生まれ。埼玉県在住。蒼海俳句会所属。第4回円錐新鋭作品賞白桃賞受賞。
note;https://note.com/chika158cm
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】