【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2025年2月分】


【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2025年2月分】


「コンゲツノハイク」から推しの1句を選んで200字評を投稿できる読者参加型コーナーです。今月は7名の皆様にご参加いただきました。ありがとうございます(とくにチーム「蒼海」の皆様…!!)。


逝く秋のインクが海といふ文字に
小久保佳世子
「街」
<NO.171>より

秋と海の共存するさらりとした表現に惹かれた。水性ボールペン、万年筆、ガラスペンなどを思う。海に「海」の字の構造に目が行くような句の作りになっており、さんずいのトメとハネや「毎」のハライなど、改めて文字の形の特徴も考える。インクの照りが秋のひかりにみずみずしく映ってくるようである。もちろん、主体が書いているのだから、秋の海の姿も意識する。主体が、海について何を書いているのかを想像するのも楽しい。メモか、手紙か、物語か、詩か。人間はペンひとつで、思索の世界に海を作ることができることに気づく。

磐田小/「南風」)


初旅のフォークに乗せるライスかな
草子洗
「田」
2025年2-3月号より

ライスを食べる際のテーブルマナーとして、かつては、まず右手のナイフでライスを掬い、それを左手のフォークの背に乗せ換えて、しかる後に口へと運ぶ、と教えられた。今ではこのようなやり方は誤りとして打ち捨てられ、フォークで普通に掬うのが正しいとされている。中七で「乗せる」とある掲句においては、かつてのマナーが実践されているように感じる。普段のやり方とは異なるやり方を堅持する姿勢が貴い。「初旅」には特別な時間が流れている。

加能雅臣/「河」)


朝寒や女を知らぬ洗濯機
松田りょう
「鷹」
2025年1月号より

洗濯機に対して「女を知らぬ」とは。鑑賞する者によって様々な想像を誘う、見事な措辞。私は、大学生となって一人暮らしをしている男性を思い浮かべましたが、全然違う景を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。いろんな方と語り合いたい句です。

千田青空/「麒麟」)


鍋に湯気ゆらりゆらりと独り酒
米田和徳
「ふよう」
2025年1月号より

「に」の助詞が良い。「の」では湯気が鍋の上に限定されてしまうし、そのあとに「自分には酒」が省略されているようにも読める。「ゆらりゆらり」という措辞は湯気だけでなく、酒を飲んでいる作中主体にもかかっている。湯気のせいだけでなく、景色がかすんでいるようだ。この人はしっかり食事を摂って飲む人なのだ。店なのか自宅の場面なのかはわからないが、冬の夕食には鍋が良い。さっと準備して肉と野菜を食べながら、ゆっくり酒を楽しむ。店ならば、この人に話しかけてはいけない。独りで夢のように飲むのが好きなのだ。

弦石マキ/「蒼海」)


照り返す紅茶のおもて文化の日
市原みお
「南風」
2025年2月号より

紅茶の表面が照り返すものは、室内であれば電灯、野外であれば強めの日差しを想像した。紅茶や珈琲の表面に電灯や人物が映っている句は目にしたことがあるが、物を言わずに「照り返す」と言い切った句は初めて見た。季語「文化の日」に一杯の紅茶をじっくりと味わう心持ちの良さを感じた。「南風」の市原みおさんの句は〈中心へゆく一人ありスケート場〉など、このコーナーでよく目にしていて、ひそかにファンなのだ。先日の「俳句甲子園フェス」の初戦でご本人にお会いできたのが嬉しかった。

千野千佳/「蒼海」)


立ちどまることなく菊を見て終る
橋本小たか
「秋草」
2025年2月号より

菊花展かなにかだろうか。「立ちどまることなく」の措辞が巧みだ。菊にも個性はあれど積極的にこちらの注意を誘う花ではない。たしかに見ていたのに何も見なかったような、表情も情緒も感じさせない淡々とした終止形の使用がいい。ポカンとなる読後感が新鮮だ。

岡本亜美/「蒼海」)


魚の散るやうにしぐれてきたりけり
山口遼也
「秋草」
2025年2月号より

意味を読み取るよりも、音やイメージを感じ取る、そんな句も好きです。ラ行音の断続も心地よく。小魚がひょいひょいと泳ぎ来る、あるいはちらちら落ちてくる、そんな光景に時雨を喩えているように思われます。時雨は、気づいた時にはもう降られていてすぐに通り過ぎて行きますので、「しぐれてゆく」ことはあっても「しぐれてくる」ことはあまりないと思いますが、「魚の散る」を支える下五としては「きたりけり」くらい大仰なレトリックがふさわしいと思いますし、平仮名表記ゆえに「うしろすがた」が浮かびます。山頭火では後方に漂泊感を漂わせているのに対してこの句の場合は前方に快活感を散りばめています。どちらかというと、たくらみの無い美しさを好みますが、それとは真逆のパフォーマンスもここまでやっていただけると心地よいです。

小松敦/「海原」)



【次回の投稿のご案内】
◆応募締切=2025年2月28日(すでに締切)
*対象は原則として2025年1月中に発刊された俳句結社誌・同人誌です。刊行日が締切直後の場合は、ご相談ください
◆配信予定=2025年3月5日
◆投稿先 以下のフォームからご投稿ください。
https://ws.formzu.net/dist/S21988499/

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