生きものの影入るるたび泉哭く
飯島晴子
晴子初期で最も有名な句として、〈泉の底に一本の匙夏了る〉がある。「匙」という日常性(食事)を、たゆたう水のイマージュのなかに閉じ込めているのに対し、掲句は「泉」そのものを、まるで生き物のようにして描いている。飯島晴子の句における神話的想像力は、この「哭く」という表現に見られるように、人間的なものを、すべて自然に明け渡してしまうようなところがある。〈さつきから夕立の端にゐるらしき〉のような淡白さとは、まるで対照的な感情の深さが、この「泉」のイマージュには、こめられている。『平日』(2001)所収。(堀切克洋)
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