【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2025年4月分】


【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2025年4月分】


「コンゲツノハイク」から推しの1句を選んで200字評を投稿できる読者参加型コーナーです。今月は7名の皆様にご参加いただきました。ありがとうございます!


お喋りな母を洗ひし初湯かな
木村厚子
「街」
NO.172より

「お喋りな母」という描写に母に対する愛情が感じられる。「母を洗ひし」には介護の背景がありつつ、それが重くなりすぎない季語「初湯」がよい。「初湯」の持つ新年の清らかさの一方、世話をする側とさせる側の立場の逆転、つまり新たな関係性への戸惑いもこの句の背景にはあると思う。それでもやはり「お喋りな母」のあかるさに救われる。家族のあたたかさとせつなさが同時に感じられる秀句だ。

千野千佳/「蒼海」)


誰も降りぬ梯子吹雪の空にあり
鈴木牛後
「雪華」
2025年4月号より

吹雪でも飛ばされないこの梯子は、どうやら空に固定されているようだが、この吹雪の中ではそれを視認することは出来そうにない。晴れた日には、空より吊り下がるこの梯子と、それを伝って降りてくる何者かに出会えるのかもしれない。天使なのか悪魔なのか、それは語り手のみが知っているのだろう。否、もしかすると、この梯子は語り手の瞳の中にあるのかもしれない。遠い昔、地に落ちた梯子を拾った語り手は、自らの眼の中の虹彩の檻に、それを閉じ込めてしまった。ならば天地をつなぐ通路の回復の鍵は、見開かれた眼の中にある、などと想像させられました。

加能雅臣/「河」


白息のかかりて生まれたての蜘蛛
野村茶鳥
「南風」
2025年4月号より

よく人を犬派・猫派と二分割するが、ならば蜘蛛派・蛇派も成立するだろうか?
もとい、白息。冬、無色なはずの息が厳寒下磨硝子のようになったかと思うと霧散する。一方、蜘蛛の子は親蜘蛛の糸で作られた卵嚢内で孵化し一回目の脱皮は卵嚢の中。身近な家蜘蛛の卵嚢は白く薄雲を重ねたようで、それが霧散したとき現れる小さくまるく濡れたように光る一粒一粒。
温かな息(宗教の時間に神父から神のプネウマ・息から世界が作られたと聞いたような)によって生命を吹込まれ動き出す、小さく密集し最後には霧散する「生まれたて」の蜘蛛の、不思議な景に心引かれた。
因みに私は絶対蛇派。八目の蜘蛛など嫌いである。

haruwo/「麒麟」)


チューリップ挿して花瓶の口余る
水上ゆめ
「秋草」
2025年4月号より

「口余る」と感じるくらいに余っている、その花瓶の口の隙間が見える。まだ入る余地があるのだが、口が広いのは挿す前から分かっていたような気がする。挿してみてやっぱりこれでいいと思う。花瓶の口にもたれているチューリップと挿した人と私はゆったりとリラックスしている。あらゆるゆとりとしなやかさがここにある。less is more。ミニマルな贅沢を堪能する。

小松敦/「海原」)


スイートピー足裏あらはに妻眠る
原信一郎
「鷹」
2025年3月号より

「スイートピー」という花、あの波打つ花びら、芯から外に広がる色のグラデーションなどから、柔らかなスカートの裾を想像することができます。作者がそれに取り合わせたのは、「眠る妻のあらはなる足裏」。軽快な「あうらあらは」の音とともに、「スイートピー」のような豊かなフリルから、ぬっと出ている生足の景が、読み手の目のにちらつきます。くすぐる甘い香り、品の良い若干の卑猥さも纏いつつの、透明な魅力を持つ一句と思います。

卯月紫乃/「南風」)


オリオンを私有地にしてしまひけり
島崎寛永
「雪華」
2025年4月号より

かつて月の土地権利書が流行ったことがあるが、掲句はそうした趣ではない。灯りのない静かな寒夜に一人いて、冬のオリオン座の星々を見上げているうちに、オリオンの輝く夜空と辺り一帯の暗闇とが次第に主体自身と一体化するように感じられてくる。数えきれない星々と真っ暗な大地の間で、吐く息だけが白い。その静謐な空間において、オリオンも見渡す限りの暗闇も流れる時間も自分だけのもの、自分だけの私有地なのである。

山屋心


折紙の蛇のからまる松飾り
馬場まさ子
「橘」
2025年4月号より

折紙の蛇と分かっているということは、句の作者か、あるいは身近な人が折った蛇ということだろうか。今年の干支が蛇だからこそできた句だと思う。寅や牛では成り立たないだろう。大地母神の象徴としての蛇が「折紙」の措辞となじみ、説明的にならない。「からまる」の措辞が気持ちよく楽しい。明るい正月を思わせる。今年は蛇のイラストの広告などをよく見かけるが、俳句でも出会えてうれしく思う。

弦石マキ/「蒼海」)



【次回の投稿のご案内】
◆応募締切=2025年5月5日
*対象は原則として2025年4月中に発刊された俳句結社誌・同人誌です。刊行日が締切直後の場合は、ご相談ください
◆配信予定=2025年5月10日
◆投稿先 以下のフォームからご投稿ください。
https://ws.formzu.net/dist/S21988499/

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