白磁の中
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小野あらた
海老の足きれいにもげる淑気かな
それぞれの顔に等しく初明り
初旅や畦くつきりと交はりぬ
腕時計の銀重さうな霜夜かな
イヤホンに熱の籠もれる風邪心地
春めくや白磁の中のほの明し
やはらかく開くおしぼり草青む
囀や林のふつと深まりぬ
磯遊びサンダルのいろ散らばれり
花冷えのホースに溜まる暗き水
サイダーの氷の穴に残りをり
葉脈の一本ほつれ落し文
夏シャツの肩の揃へて干されけり
蜘蛛の子の縺れてしまふ一歩かな
扇風機羽根の光の震へをり
八月の油絵の海乾きけり
一塊の草の暮れたるきりぎりす
東屋の腰掛に傷薄原
天高し鉄橋の弧の交はりぬ
ふりかけの魚の固きそぞろ寒
(出典:第2回石田波郷俳句大会作品集、2010年)