
紅葉且散る街中を縫ふやうに
椋麻里子
街路樹の紅葉が、風に揺れながら散っていく。
秋の澄んだ空気のなかで、行き交う車や人の流れにまぎれ、
ひらひらと葉が空間を縫うように落ちていきます。
そんな光景に出会うのは、誰にとってもごくふつうの街中の一場面かもしれません。
「紅葉且散る」という季題には、色づきの華やぎと、
散りゆくはかなさの両方が、そっと重なっています。
その季題を受けて「街中を縫ふやうに」と続けたとき、
自然と都市とが交差する、不思議な静けさが立ち上がります。
澄んだ空気、ビルの影、遠くのクラクション、人々の靴音。
そのあいだを、紅葉の導線がやさしく繋いでいくようです。
紅葉の華やかさも、散るはかなさも、
私たちの肩先をかすめながら通り過ぎていきます。
ほんの一瞬の出来事ですが、
その柔らかな触れ合いは、詩そのもののように思うのです。
(菅谷糸)
【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。

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