階の軋む古城や冬紅葉 鳴戸まり子【季語=冬紅葉(冬)】

階の軋む古城や冬紅葉

鳴戸まり子

踏みしめるたび、ぎしりと響く古城の階(きざはし)。冬の光を受けて、外の紅葉がわずかに揺れている。

階の響きは、古城が語りかけてくる歴史であり、冬紅葉は、過去と今日を重ねる架け橋のようです。
古城の歳月を思いながら、冬紅葉を見つめるその眼差しに、どんな思いが重なっていたのでしょう。

古城の軋む音にあるわずかな不安に、冬紅葉の明るさを添えた時、過去と現在、静けさと華やかさがひとつの場面に同居しています。
冬紅葉は、散り際にいっそう赤みを増すものです。
その鮮やかさは、古城が背負う長い時間を一瞬だけ照らす光のようでもあります。

過ぎ去った時間の重みと、いま生きている季節のかすかな息づかい。
そこから、去ったものへの静かな哀しみと、まだ在るものへの慈しみが、軋む音と紅葉のあいだに響くのを感じました。

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




【菅谷糸のバックナンバー】
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