
【春の季語=晩春(4月)】逃げ水(逃水)
にげみず。「蜃気楼」の一種で、風がなく晴れた暑い日に、アスファルトの道路などで、遠くに水があるように見える現象。「地鏡」とも呼ばれる。夏の風物詩のひとつだが、「陽炎」とともに春の季語とされる。「げ」を送らないこともある。『散木奇歌集』(1128年ごろ)に、〈東路に有といふなる逃げ水の逃げのがれても世を過ぐすかな〉とあるように、古くから歌に詠まれてきた。

【逃水(上五)】
逃水を追ふ逃水となりしかな 平井照敏
逃水のごと燦燦と胃が痛む 佐藤鬼房
逃げ水やつひの日まで妻として 須賀一恵
逃げ水の逃れきつたる日本海 有馬朗人
逃げ水の逃ぐるを追ひてわが五十路 鷹羽狩行
逃げ水の果てに補陀落ありにけり 角川春樹
逃げ水の逃げゆく先や母の国 水野真由美
逃水の消えたる宙にルドンの目 佐怒賀正美
逃水を追ふや乳房は崖になり 櫂未知子
逃げ水や夢のつづきをみるこころ うにがわえりも
逃げ水となり我我は急ぐかな 岩田奎
【逃水(中七)】
吻けをして逃水を追うてをり 石原八束
浮き世とや逃げ水に乗る霊柩車 原子公平
自転車で過ぐ逃げ水を見しあたり 辻美奈子
父といふ逃水にまた靴履かせ 飯田冬眞
【逃水(下五)】
【その他の季語と】
逃水に行止りなし雲の峰 仁平勝
【短歌】
逃げ水の輝くさなか揺らぎつつこの世の夏をパレードが来る 谷岡亜紀