夏の季語

【夏の季語】サイダー

【夏の季語=三夏(5月〜7月)】サイダー

【解説】サイダーといえば、最も有名なのは「三ツ矢サイダー」でしょう。バブル期にアサヒスーパードライが大ヒットするまでは、アサヒ飲料の経営を支えた主力飲料でした。

炭酸水を飲む習慣は江戸時代にはなく、幕末における「輸入」を経て、明治時代に入ると、「外国人接待用の炭酸水を調達するため」に宮内省が全国の鉱泉を調査。そこで見つかったのが兵庫の平野鉱泉で、ここに炭酸水の御料品工場が建設されたのがはじまり。

アサヒ飲料のホームページ(三ツ矢の歴史)

平野鉱泉は江戸期、付近にある多田神社の家老・三ツ矢旗兵衛の領地でした。この「三ツ矢さん」の苗字は、平安時代中期にまで遡ります。

摂津源氏の祖源満仲が神託に従い「三つ矢羽根の矢」を放って城を建てたとき、矢を探してくれた男に褒美として領地と「三ツ矢」の姓と三本の矢羽の紋を与えました。満仲はある日鷹狩りに出かけた際、偶然居城近くの塩川の谷間で、一羽の鷹が湧き出ている水で足の傷を治して飛び立つのを目撃し、霊泉としてあがめられた天然鉱泉は、庶民の「湯」として利用され、明治初年頃まで「平野温泉郷」として存続していたのです。

とはいえ、現在のように砂糖や香料で味や風味をつけたソーダ水のことを指すようになったのは、1970年代の話。もともと「サイダー」フランス語のシードル(cidre)、つまり英語の林檎酒を意味する言葉なので、日本でも「りんご風味のソーダ水」に限定して使われていました。

もうひとつ味付きの炭酸水である「サイダー」には「レモン味」の系譜があります。英語圏では「レモンライム(lemonlime)」または「レモネード(lemonade)」、フランス語では「リモナード(limonade)」と呼ばれるものですね。

こちらの系譜で最も有名なのは、「キリンレモン」でしょう(1928年発売)。まあ、この商品はレモン果汁が一滴も入っていないのですが、1966年の初代イメージガールを務めたジュディ・オング以降、サイダーの普及に一役買ったもうひとつの飲み物でしょう。

とくに1980年、新しい天然甘味料として「果糖ぶどう糖液糖」が登場したことは、とても重要な転換点だったように思います。もともとは大衆的な「ラムネ」に対する嗜好品として位置付けだった「サイダー」は、高度経済成長期を通じて、だんだんと子供にも馴染みのあるものになっていったのですね。

おそらく、昭和50年代以降に生まれた世代には、それほど「高級」なイメージはなく、むしろ「大衆的」な清涼飲料として親しまれているのではないでしょうか。

ちなみに炭酸飲料購入額が全国1位の炭酸飲料大好き県は、青森!

理由の一つに「平均気温が28度以上になる日が少ない」というのがあるそうなのですが、気温が29度を越えると、炭酸飲料よりお茶や水等が飲まれるようになるのだとか。全国各地には「地ビール」ならぬ「地サイダー」がありますが、青森には「三島サイダー」というのがあります。オシャレでかわいいデザイン。ぜひいちど、ご賞味あれ。

(AMAZONにリンクします)

【関連季語】ソーダ水、ラムネ、氷水、氷菓など。


【サイダー(上五)】
サイダーをサイダー瓶に入れ難し 加藤郁乎
サイダーや沈没船の中の昼 阿部完市
サイダーを一気に飲む水平線 今瀬剛一
サイダーや泡のあはひに泡生まれ 柳生正名
サイダーや儚さよりも軽き泡 守屋明俊
サイダーに曲学阿世の泡ほのか 櫂未知子
サイダーに浮ぶ檸檬のやうな午後 嶋田麻紀
サイダーにだらだらと日が暮れてゆく 抜井諒一
サイダーのストローを噛むのはお止し 小川春休
サイダーの氷の穴に残りをり 小野あらた

【サイダー(中七)】

二階へ運ぶサイダーの泡見つつ 波多野爽波
ワイシャツは白くサイダー溢るゝ卓  三島由紀夫
気の抜けたサイダーが僕の人生 住宅顕信
食堂にサイダーつぎて島の昼  鎌田俊

【サイダー(下五)】


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