ハイクノミカタ

原爆忌誰もあやまつてはくれず 仙田洋子【季語=原爆忌(秋)】


原爆忌誰もあやまつてはくれず

仙田洋子 


この句が収められている句集には、〈秋の暮なにがあやまちだつたのか〉という句があり、もちろん身辺の些細なトラブルとも読めなくもないのだが、しかし三橋敏雄が〈あやまちはくりかえします秋の暮〉と詠んでいる以上、この句も敗戦のコンテクストで読まれるべきだろう(三橋の句は広島の平和記念公園の碑に「繰り返しません」と書いてあることを下敷きにしている)。さて、謝るべきは、誰だろうか。アメリカ人の多くがいまだに原爆投下を「正当化」していることは悲しいことだし、日本のなかにも「あれは侵略戦争ではなかった」と歴史を修正にかかる論者も少なくない。だが、一般市民が完全に被害者かといえば、そうではないようにも思う。戦争に踏み込んでいく時点で、いったい誰が原爆投下を想像できただろうか、と開き直ることはもちろんできるけれど、「最悪の可能性」を私たち市民は考えなければならない。そんな問いかけが、「誰もあやまつてはくれず」という空虚から、混沌の現代を生きる私たちへと、リバウンドしてくる。『はばたき』(2019)所収。(堀切克洋)



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