【春の季語(晩春=4月)】遅日
「ちじつ」は、春の日暮れが遅くなること、つまり「日永」の状況を表す季語。
「遅き日」という和語が、明治以降の漢文脈のなかで、このようにも使われるようになった。
【遅日(上五)】
遅日のゴリラ転進不能と絡みあふ 竹中宏
遅日このパスタ天使の男性器 佐山哲郎
【遅日(中七)】
この庭の遅日の石のいつまでも 高濱虚子(竜安寺)
ビルを出て遅日の街にまぎれ入る 井本農一
回診の終り遅日の庭に立つ 吉屋信子
土佐犬は遅日のまぶたふせしま 高木晴子
コマ落としめいて遅日の走り書き 小津夜景
うつふんと止まる遅日の昇降機 黒澤あき緒
【遅日(下五)】
離れ間の明け放ちある遅日かな 高野素十
両の手をもて余しゐる遅日かな 柿本多映
亡き夫の五十回忌や吾が遅日 春藤セイコ
うしろより馬ついてくる遅日かな 高田正子
パジャマから出てパジャマへ帰る遅日 山本純子
戸を開けて子を呼んでいる遅日かな 千葉皓史
山に添ひ人の歩める遅日かな 篠塚雅世
漱石を十円で売る遅日かな 澤田和弥
大きめの犬に嗅がれる遅日かな 小野あらた
【ほかの季語と】
どうだんの花がこぼるる石遅日 山口青邨