いじめると陽炎となる妹よ
仁平勝
(『東京物語』)
妹のいる男性は、姉のような存在に憧れ、しっかり者の姉さんタイプの女性を恋愛対象とするのに対し、姉のいる男性は、妹のような守ってあげたくなる存在に憧れるといわれているが本当だろうか。ちなみに兄のいる女性は、兄に似た年上の男性を恋愛対象とし、弟のいる女性は年下の可愛らしい男性に恋をするとか。私の知っている友人たちは、あくまでも個人的な判断ではあるが、そういう傾向がある。
私には三つ年上の姉がおり、幼い頃は卑下されたり、妬まれたり、嫌な思いをした。姉は姉で、いじめた翌日には反省するのか優しくなる。現在は、親友のような存在だが、お互いにコンプレックスを抱き合う。異性の兄弟がいない私は、姉が兄だったらと何度も思った。兄がいたら、守って貰えたのにとか、デートの練習に付き合って貰えたのにとか、勝手な兄妄想を描いた。友人のお兄さんは、みんな格好良くて優しかったので、余計に兄幻想が膨らんでしまった。ところが、現実の兄は優しい男性ばかりではなかった。
とある、妹のいる男性は、常に優位な立場になりたがり、知っていることを自慢し、「こんなことも知らないのかよ」という。私が背伸びして、大人ぶると何かと難癖をつける。「気が利かない」などのモラハラ発言の他に、ファッションや食事に対する欲求が多かった。その割には「俺は傷つきやすいんだから守ってよ」と甘えてくる。世の男性はみな、そういう一面があるのかもしれない。もしくはたまたま、妹のいる男性に私が愛されなかっただけなのかもしれない。優しいお兄さんは世界のどこかにきっといると信じたい。だが、いつも妹のいる男性との恋はうまくいかなかった。
ある時は、姉のいる男性とも交際した。こちらは、とても優しく、女心をよく理解していた。私が無知な発言をしても「可愛いな」で許してくれる。失敗や悩み事も相談し合えた。末っ子同士のため、お互いに姉に押さえつけられてきた経験を共感し合えたことも大きい。ただし結婚すると、もれなく気の強いお姉様が親族となる。また、弱者に同情しすぎるため、余計なことに首を突っ込み、巻き込まれることがある。
親と同様に兄弟姉妹は選べないし、その関係性は環境によって異なるため、一概には語れない。あくまでも私の数少ない経験での個人的な印象である。
いじめると陽炎となる妹よ 仁平勝
作者は、昭和24年東京生まれ。30歳の頃、坪内稔典編集の『現代俳句』を読み、俳句に興味を持つ。攝津幸彦と共に「豈」に参加。「未定」「俳句評論」の参加を経て、平成元年に坪内稔典代表の「船団」に入会。平成15年には今井杏太郎主宰の「魚座」に入会するも3年後に終刊。現在は「件」所属。俳句評論が有名で、平成9年、『俳句が文学になるとき』などの業績で第19回サントリー学芸賞受賞。平成15年『俳句のモダン』で第3回山本健吉文学賞評論部門受賞。平成20年『俳句の射程』で第9回加藤郁乎賞および第21回俳人協会評論賞受賞。句集に『花盗人』(私家版)、『東京物語』、『黄金の街』がある。
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