【夏の季語】髪洗う

【夏の季語=三夏(5月〜7月)】髪洗う

明治時代まで、皮脂などを落とすために粘土や火山灰が、洗い上がりの感触を良くするためには、ふのり・卵白などが使われていた。大正から昭和初期にかけて、「髪洗い粉」が出回り、1930年代に、安定した性能と品質の「固形石けん」が、1955年には「粉末シャンプー」が発売。日本住宅公団発足し風呂付住宅が普及した1960年代には、ついに「液体シャンプー」が発売されて普及し、現在に至っている。

季語としては、改造社版『歳時記』や、虚子編の『新歳時記』(昭和初期)あたりが、「髪洗ふ」を(女性の行動として)「夏」として立項している。江戸時代後期の風俗を記した『守貞謾稿』(喜田川守貞著、1837年に起稿)に、「江戸の女性は必ず月に1、2度髪を洗い、夏は特に度々洗髪した」という内容のことが書かれていることも起因したか。

歌川国貞(三代歌川豊国)
「江戸名所百人美女 今川はし」

しかし髪を洗わねば臭くなるのは、男女ともそうである。とくに、髪を洗う頻度も「ほぼ毎日」となった1990年代以降には、とくに女性の行動として限定する必要はなく、したがって、読みの上でも必ずしも女性を想定する必要はなくなりつつある。

この季語のやや不可思議な来歴については、橋本直「「髪洗ふ」攷」(@週刊俳句、2018年6月10日)を参照のこと。

歴史的仮名遣いでは「髪洗ふ」。

名詞として「洗ひ髪」としても用いられることもある。


【髪洗う(上五)】
髪洗ひたる日の妻のよそ/\し 高野素十
髪洗ふ夜の羅馬びと歌ひ過ぎ 小池文子
髪洗うまでの優柔不断かな 宇多喜代子
髪洗ふいま宙返りする途中 恩田侑布子
洗ひたる髪を鎖骨の辺に絞る 高勢祥子

【髪洗う(中七)】
子の髪を洗ふ遥かに海が鳴る  有馬朗人

【髪洗う(下五)】
目をつむる顔横向けて髪洗ふ 高野素十
うつむくは堪へる姿ぞ髪洗ふ 橋本多佳子
ねんごろに恋のいのちの髪洗ふ 上村占魚
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ 野澤節子
思ひのたけを闇に投げ出し髪洗ふ 石原八束
五十なほ待つ心あり髪洗ふ 大石悦子
ぬばたまの夜やひと触れし髪洗ふ 坂本宮尾
いとほしむほどの丈なき髪洗ふ 檜紀代
足元に子を絡ませて髪洗ふ 辻村麻乃



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