熱砂駆け行くは恋する者ならん 三好曲【季語=熱砂(夏)】

熱砂駆け行くは恋する者ならん

三好曲
(『空港』)

 熱砂とは、真夏の陽射しにより灼けて熱くなった砂のことである。砂浜だけでなく、砂丘や河原の砂なども含む。

 海水浴場では、砂の温度が高くなり素足では歩けないため、ビーチサンダルを履く。毎回困るのは、シートを敷いてビーチパラソルを立てた場所から海まで移動する時である。ビーチサンダルのまま海に入るとサンダルが浮いてしまう。波打ち際手前で脱ぎ捨てて置くと、波にさらわれたり、誰かに持っていかれてしまったりする。かといって、素足で行こうとすると熱くて跳び上がってしまう。子供の頃は、母が波打ち際でビーチサンダルを回収してくれて、海から上がる時に呼べば持ってきてくれた。

 大抵、シートを敷いた荷物置き場には海に入らない見張り役がいるものである。ところが、恋人と二人で来ると困ってしまう。荷物は海の家に預けるとしてもビーチサンダルの保管場所に悩む。波打ち際近くにシートを敷き、盗まれても良い安物の保冷袋に氷や飲み物を入れて重しとし、そこに置いてくるという手もある。ただ、潮が満ちて来る度に移動する必要がある上に、人の行き来が多い場所なので落ち着かない。

そんなこんなで結局、小さめのビーチボートをレンタルし、その中にサンダルを入れ、ボートにつかまりつつ泳ぐという遊び方を覚えた。ビーチボートは二人でつかまっても沈まず、波乗りも楽しめる。遠浅の海であれば、防波堤まで泳ぎ、ボートを繋いだあとは、ビーチサンダルを履いてテトラポットの合間の蟹と遊ぶこともできる。他には、浮輪のリングにサンダル袋を繋ぐという方法もある。

 大学時代にサークルの夏合宿で八丈島に行った。海辺の宿で水着に着替え、サークル費で購入したクーラーボックスにビールを詰め込み、大きな遮熱シートを抱えてみんなで砂浜まで歩いた。若者は荷物が多い。ビーチパラソルの下には色とりどりの袋が積まれた。休憩場所を確保した後、私は浮輪をレンタルしに行った。戻ってくると同級生のやっくんが一人でビールを飲んでいる。

 「あれ、みんなは?」「泳ぎに行った。僕はじゃんけんで負けて荷物番になった。君も泳いできていいよ」。一人で荷物番になったやっくんを気の毒に思い、「一緒に飲もうか」と言った。

 彼は、サークルでは目立たない男の子で、それまであまり話をしたことがなかった。午前中のビールは冷えていて、熱風も涼しく感じた。会話が続かないことに焦って、立て続けに二缶ほど空けた。「みんなが戻ってくる前に、クーラーボックスのビールを全部飲んじゃおうか」と言うと、やっくんは「それは良い考えだ」と笑った。昼近くにみんなが海から上がってきた頃には会話も弾んで陽気な二人になっていた。「二人とも泳いできなよ」と先輩が言う。「じゃあ、泳ごうか」と私はやっくんの手をつかんで海まで走った。

関連記事