【第4回】
歌舞伎の劇場にまつわる新年の季語と俳句
(2025年1月4日歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎」)
お正月の歌舞伎の劇場は、日本の中で最も本格的なお正月を感じられる場所のひとつである。お正月飾りの豪華さ、おめでたい空気、華やぎを、歌舞伎の劇場で感じて、一年の始まりを景気良く迎えていただきたい!という想いをこめて、今回の「歌舞伎所縁俳句」は”お正月特別編”として、筆者が1月4日に歌舞伎座と1月5日に新春浅草歌舞伎を観劇してきたレポートとともに、歌舞伎の劇場にまつわる新年の季語と俳句をご紹介する。
【初芝居】
「初芝居」は、お正月に行われる芝居興行のこと。今年は巳年で、歌舞伎座最初の演目は、坂東巳之助が主役。巳年の幕開けにふさわしい、巳之助の迫力たっぷりの芝居である。
能管の一声高く初芝居 坂東三津五郎
【初曽我】
季語「初芝居」の傍題に、「初曾我」がある。鎌倉時代の曽我兄弟の仇討ちの物語で、江戸歌舞伎の初春に吉例として上演されてきた。今年も歌舞伎座昼の部に「寿曽我対面」がかかり、新春浅草歌舞伎第2部でも「春調娘七草」に曽我兄弟が登場している。先の初芝居の巳之助は、この「寿曽我対面」の曽我五郎である。
初曾我や團十菊五左團小團 正岡子規
(歌舞伎座外に貼り出された「寿曽我対面」のポスター)
【門松】
歌舞伎座の玄関前には、とても大きく立派な門松が立てられる。竹の切り方は水平の「寸胴」で、その周りにたっぷりの松、それを俵と杉の皮で覆い、縄で締められている。
此隅に門松立てり江戸の春 正岡子規
【鏡餅】
お正月の歌舞伎座の大間には、とても大きな鏡餅が飾られる。生の餅なので、時間が経つにつれて乾燥して大きなヒビが入っていくさまも迫力がある。
鏡餅開幕のベル鳴りわたる 水原秋櫻子
【飾海老】
鏡餅のところには飾海老も。本物の伊勢海老を使っているので、強い香りが吹き抜けの2階、地下までも漂う。存在感抜群である。
暫の顔にも似たりかざり海老 永井荷風
【まゆ玉】
歌舞伎座の大間には、まゆ玉(餅花)もたくさん飾られている。宝船や小槌、小判などおめでたい飾りもついている。こんなに大きくてたくさんのまゆ玉は、歌舞伎座でしか筆者は見たことがない。
まゆ玉にまだ/\つゞく人氣かな 久保田万太郎
(前書 歌舞伎座にて)
【出初】
歌舞伎座では毎年1月上旬に、「木遣り始め」という催しがある。江戸消防記念会・第一区六番組「す組」の方々により、昼の部の幕間にロビーで行われる。東京消防出初式のあと、火消しの鳶姿で歌舞伎座に登場し、纏振りや木遣り唄を披露する。「木遣り始め」の日は毎年、日時も曜日も定例ではなく、事前告知もないので偶然見られたらラッキーである。筆者は偶然、3年連続でこの「木遣り始め」を見られた。「江戸鳶木遣」は、東京都指定無形民俗文化財である。
出初式霜を散らして纏かな 松根東洋城
【羽子板】
新春浅草歌舞伎を開催している浅草公会堂の1階ロビーには、たくさんの歌舞伎役者や噺家、舞踊家など浅草にゆかりのある方々による羽子板の作品が展示されている。「新春浅草歌舞伎チャリティー羽子板」として、贔屓の羽子板に入札でき、今年はその収益が全額能登半島地震・能登半島豪雨の義援金に充てられる。
羽子板や去年多かりしあたり役 水原秋櫻子
今月は1月2日から26日まで歌舞伎座と浅草公会堂、1月3日から26日まで新橋演舞場と大阪松竹座、1月5日から27日まで新国立劇場でそれぞれ歌舞伎公演が行われている。「初芝居」でお正月を思い切り堪能してみては。
(小谷由果)
【執筆者プロフィール】
小谷由果(こたに・ゆか)
1981年埼玉県生まれ。2018年第九回北斗賞準賞、2022年第六回円錐新鋭作品賞白桃賞受賞、同年第三回蒼海賞受賞。「蒼海」所属、俳人協会会員。歌舞伎句会を随時開催。
(Xアカウント)
小谷由果:https://x.com/cotaniyuca
歌舞伎句会:https://x.com/kabukikukai
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