【冬の季語=三冬(11〜1月)】枯野
「枯れ」た野原。「枯野原」とも。
広い野原は「大枯野」。横の川は「枯野道」。道は「枯野道」。
【枯野(上五)】
枯野かなつばなの時の女櫛 井原西鶴
枯野くるひとりは嗄れし死者の聲 河原枇杷男
枯野ゆく一番星を道しるべ 鷹羽狩行
枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
枯野ありイエスはいつも足垂れて 有馬朗人
枯野より信玄袋もどりくる しなだしん
枯野描く色鉛筆の丈いろいろ 折勝家鴨
夢は枯野を少年少女合唱団 山田露結
枯野から信長の弾くピアノかな 手嶋崖元
【枯野(中七)】
たゞ見る起き伏し枯野の起き伏し 山口誓子
杖上げて枯野の雲を縦に裂く 西東三鬼
小鳥死に枯野よく透く籠のこる 飴山實
トラックが枯野越え来て女おろす 寺山修司
他のこと考へ枯野逢曳す 堀井春一郎
こゝ迄は雪無き枯野これよりは 高濱年尾
つひに吾れも枯野のとほき樹となるか 野見山朱鳥
みどり子に急ぐ枯野に乳はり来 野見山ひふみ
光陰のひそむ枯野をなに急くや 小林康治
ふるさとや枯野の道に海女と逢ふ 鈴木真砂女
晩年の過ぎゐる枯野ふりむくな 齋藤玄
印刷工枯野に風を増刷す 能城檀
よく眠る夢の枯野が青むまで 金子兜太
移り来し個室枯野を前にする 宗田安正
いつ来てもひとりの枯野とぶ穂絮 筑紫磐井
三面は枯野へ開き能舞台 野中亮介
君乗せむかな枯野馬車たびぐらし 田中裕明
ゆつくりと彼女枯野を脱ぎ始む 夏木 久
遊園地やがて枯野に侵さるる 髙柳克弘
【枯野(下五)】
いまそかりし師の坊に逢ふ枯野哉 高井几董
この杖の末枯野行き枯野行く 高浜虚子
家建ちて硝子戸入るゝ枯野かな 渡辺水巴
土手うらに千鳥あがりし枯野かな 大橋櫻坡子
気の狂った馬になりたい枯野だった 渡辺白泉
それぞれに見るものありて枯野見る 宮津昭彦
明るく死ぬこともあるべし枯野行 宇多喜代子
少年に咬みあと残す枯野かな 櫂未知子
逆行の人と話せる枯野かな 藤井あかり
【ほかの季語と】
冬が来るもぬけのからの枯野より 齋藤愼爾
厄除けの礼焼いてゐる枯野かな 角川春樹