薄つぺらい虹だ子供をさらふには
土井探花
私は俳句を始めて数年後に、口語の歴史的仮名遣いに統一した。
しかしこれは、季語や切れ字を使うにあたってとても整合性が取りにくい。連作を編むと特にそれを感じて、行き詰まることが多い。そういえば、子供の頃から少数派に立つことが多かった。
2023年の第40回兜太現代俳句新人賞を受賞した土井探花の50句を読み、「これでいいんだ。このまま突き進もう。」と決めた。
私の作る句の95%は架空のもので、実体験ではない。故に人の句も、作者と作中主体を分けて考えようと思っている。思ってはいるものの、土井探花という俳人には漏れ出すものがある。
薄つぺらい虹だ子供をさらふには
受賞作「こころの孤島」の第一句がこれだ。
好き嫌いの多い(むしろ嫌われる)チャレンジングな句。
この連作を読み、作者は何かを諦め、何かに挑んでると感じた。
ハンカチは畳める砂漠なのだらう
滝であることを後悔しない水
などは乾き切ってる日常を想像する。
句集『地球酔』では
桜桃の小さな方を父とする
という句がある(81ページ)。
夫婦茶碗はほとんどが大きな方を夫、小さなほうを妻のものとする。そういう従来の家父長制や固定観念に囚われたくない気持ちを感じる。
水中花ふと性別をその他とする(52ページ)
雨後の朝顔平等はきつとある(105ページ)
冴返る塗りづぶさない性別欄 (132ページ)
句集を読み進め、このような句に出会い尚更そう思う。
時鳥くちびるといふ役立たず (51ページ)
「女性だから」とか、「普通はこうだ」とか、「口語俳句なんて」と言われることに対して「失礼ですよ」と真っ向から反論すると角が立つので、愛想笑いでやり過ごす。
そのように読んだ。
探花さんとお会いしたことはない。
初学の頃にネット上にお互いの句が発表されたり、ネット句会でニアミスしたり、「私の名前は覚えているであろう」くらいだった。
最もお会いしたい俳人のひとりである。
口語俳句をどう操りどう進んでいくか。
薄っぺらい口語で俳句界をぶっさらっていこうではないか。
(有瀬こうこ)
【執筆者プロフィール】
有瀬こうこ(ありせ・こうこ)
2016年12月作句開始。
いぶき俳句会所属。豆の木参加。
2023年第13回百年俳句賞最優秀賞。
2024年第30回豆の木賞。
2025年第8回俳句四季新人賞奨励賞。
2024年「えぬとこうこ」発売。
2025年末「えぬとこうこ2」発売予定。
【2025年5月のハイクノミカタ】
〔5月1日〕天国は歴史ある国しやぼんだま 島田道峻
〔5月2日〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔5月3日〕ふらここの音の錆びつく夕まぐれ 倉持梨恵
〔5月4日〕春の山からしあわせと今何か言った様だ 平田修
〔5月5日〕いじめると陽炎となる妹よ 仁平勝
〔5月6日〕薄つぺらい虹だ子供をさらふには 土井探花