
水野太貴
『会話の0.2秒を言語学する』
新潮社(2025年)

テレワークが定着してから、YouTubeと親しむ機会が増えた。「ゆる言語学ラジオ」の存在はずっと認識しておりつつ沼にはまりそうでずっと触れないようにしていたのだが、後輩に勧められて「この子が観てるのに私が観ていないなんて許せない!」と視聴開始。言語学が話題の中心ではあるが、話し手・水野太貴と聞き手・堀元見とのテンポの良いやりとりも魅力のコンテンツだ。電車の中だと爆笑の恐れがあるので冷静さを保ちつつ会話に聞き入っている。本書はその水野による単著である。発売前から重版に次ぐ重版で、品切れを詫びる動画がアップされた。
0.2秒とは一人の話者が話し、別の人が話し始める話者交代までの時間のこと。会話のキャッチボールの間にいかに多くの情報が処理されているのかが明らかにされ、いつもの何気ないやりとりすら奇跡に見えてくる。
脳で実際何が行われているのかが書き綴られているのだが、漫画『アカギー闇に降り立った天才』やクイズ番組『Qさま‼』を例にあげるなど親しみやすいとっかかりポイントが多数用意されている。
そうした要素もさることながら文体が心地よい。形としては書き言葉なのだが、「~すればOKだ」が頻出して口語の匂いが随所に配されている。「しれっととんでもないことをお伝えしている」などという言葉選びも気安さを与えてくれる。「もう少しだけ脱線を楽しませてほしい」などと書かれると、「はい、水野さんもっと楽しんでください!」と返したくなる。一緒に楽しみましょうと投げかけ続けてくれている感覚を抱きながら読み進める時間は快適だった。
深く共感した箇所を紹介したい。相手が理解しやすい状態にして差し出すことでコミュニケーションは上手にとれるという話の流れでこんな一節があった。
‘僕は自分が誤解を招いたときは、「相手が自身の発話を正しく解読できなかった」と思うのではなく、「相手が適切な解釈にたどり着くためのいいヒントを与えられなかった」と考えるようにしている。’
この「いいヒント」の最終形態が俳句なのではないだろうか。興味のある方は「第一章 コミュニケーション上手になるための『語用論』」にある「コミュニケーションモデルは『暗号解読』から『推論』へ」の節にあたっていただきたい。
(吉田林檎)

【林檎の本 #5】
『会話の0.2秒を言語学する』(新潮社、2025年)
著者:水野太貴(みずの・だいき) 1995年生まれ。愛知県出身。名古屋大学文学部卒。専攻は言語学。出版社で編集者として勤務するかたわら、YouTube、Podcastチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務める。同チャンネルのYouTube登録者数は43万人超。著書に『きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集』(KADOKAWA)など。
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】

【吉田林檎のバックナンバー】
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