【第1回】ポルトガル――北の村祭と人々
藤原暢子(「雲」同人)
先頭を進む楽団、大太鼓に小太鼓、バグパイプが、にぎやかに音楽を奏でる。仮面を被り、毛むくじゃらの衣装をまとった若者たちと一緒に、石造りの家の中へ入る。家の人々は赤ワインを注ぎ、皆を迎え入れる。テーブルに並ぶのは、自家製の腸詰めに、生ハム、クリスマスのたくさんのお菓子。暖炉の火に体を温め、ふと顔を上に向けると、天井からは、今年作ったばかりの腸詰がぶら下がる。いつの頃からか、こんな冬の光景が、自分にとっては当たり前になっていた。
ここ数年、年末年始はポルトガルの北東の山間部トラス・オス・モンテス地方(Trás-os-Montes=山の向こうの意)で過ごしている。クリスマス期間(12/24〜1/6)の頃に催される数々の村祭で現れるポルトガルの“ナマハゲ”を追っかけているからである。分かりやすくナマハゲと言ってしまったが、村祭の多くでは、仮面を被った者や、顔を黒塗りにした者などが登場し、祭の道中にいたずらを仕掛けてくる。一部ではケルト起源とも言われているとおり、カトリック信仰とは異なる異教の祭礼であり、特にクリスマス期間のものは、冬至に関連していると考えられている。
そもそもは2011年、リスボンへ留学していた頃、写真の授業での「カーニバルを撮影してくる」という課題をきっかけに、この地方に続く数々の風変わりな村祭の存在を知った。クリスマス期間とは別に、カーニバルでも仮面の登場する祭があるのだ。もともと祭好きだった私は、初めて訪ねたポデンセ村のカーニバルで、仮面達に揉みくちゃにされ、以来、これらの祭の虜になってしまったのである。その撮影の際、帰りに立ち寄った小さな博物館で、この地域と、国境を挟んだスペイン側との村祭を紹介した薄いカタログを手に入れ、この1冊が入口となって、今日まで祭を追っかけ続けることになったのである。
一方で、これらの祭を通して人々と知り合い、関係を深めるうちに、祭とともに、その地域での村の暮らしにも、自然に触れることとなった。冬は腸詰を作るシーズンであり、未だ村単位で、豚の解体が行われている。その腸詰作りに欠かせない、暖炉の火。火のそばに置かれる、この地方独特の、ダルマのような形をした大きな鉄鍋。皆と一緒に、暖炉のそばに身を寄せると、いつも家族になってしまったような錯覚を覚える。
2020年は、残念ながら新型コロナの影響で、この地への訪問が叶わなかった。でも遠く離れた日本で、祭の音楽や、暖炉の火を思い出しながら、愛しい人々のことを想っている。
【次回は1月25日配信、折勝家鴨さんです】
【執筆者プロフィール】
藤原暢子(ふじわら・ようこ)
1978年鳥取生まれ。岡山育ち。東京在住。2010年秋から2012年夏まで、ポルトガルの首都リスボンへ留学。ポルトガル語と写真を学ぶ。2000年夏、バイト先で出会った鳥居三朗の誘いを受け、俳句を始めると同時に「魚座」へ入会。2006年「魚座」終刊。2007年創刊より「雲」入会。2017年から2019年「群青」へも参加。現在「雲」同人。俳人協会会員。第10回北斗賞受賞。第1句集『からだから』(文學の森/2020年)。写真家としても活動し、個展開催多数。