天狗は妖怪か──久留島元『天狗説話考』(白澤社、2023年)
評者:村山恭子
昨今の気候変動などにより里山でクマに遭遇する機会が増えていますが、もし山で「天狗」に出会ったら・・。クマと遭遇した時の対策方法と同様に、本書で「天狗」についてより深く学んで、親密な交流が図れるようにしましょう。
著者は久留島元(くるしまはじめ)氏。俳人として関西現代俳句協会青年部部長、俳句結社「麒麟」編集長等の要職を担いながら、国文学研究者(文学博士)としても気鋭の活躍をされています。
「天狗の正体を明らかにしない」という前提のもと、時代を横断し、さまざまな学問分野を参照しながら、実体ではないイメージを四章に分けて論じています。
どの章も豊富な文献を基に、自説をわかりやすくかつ濃密に展開し、所々に挿入されている「天狗」絵図も魅力的です。俳諧のなかの天狗、杉田久女の天狗に関わる句も紹介されています。
また、帯に「天狗は妖怪か」とキャッチコピーがあります。
『連句・俳句季語事典 十七季(第二版)』(三省堂)では、「天狗茸」、「天狗の羽団扇」がありますが、「妖怪(ようかい)=雪女郎や河童などの類」とあり、「天狗」が妖怪かどうかは明示されていません。
本書を読み終えた時、あなたは「天狗」を妖怪としますか、しませんか。
そうそうこの本、自室の書棚から所蔵庫へ移そうとしたら、書評執筆の依頼をいただくという、なんとも霊験あらたかな本です。
きっとあなたも「天狗」の力にあやかれるでしょう。
(村山恭子)
【執筆者プロフィール】
村山恭子(むらやま・きょうこ)
現代俳句協会会員。「菜の花」「楽園」「豈」所属
天狗は、古代日本では飛行する悪霊として、人に取り憑き、仏道修行をさまたげる天魔と同一視された。以来、飛行する悪霊という基本的性質は共通しつつ、中世の「天魔」から、「山の神霊、怪異」へと変化し現在に至っているのだが、その内実は単純ではない。本書はさまざまな要素が複雑にからみあって成長してきた天狗像を「天狗説話」に注目して解き明かす。
天狗説話の背景には、信仰心や恐怖心だけでなく、政治や宗教、あるいは娯楽や学問的関心があった。また、説話は文字資料だけでなく、絵巻や能・歌舞伎、昔話や芸能、マンガやアニメなど、あらゆるメディアを往還し、定着してきた。
日本文化史が織りなしてきた変化とパラレルに展開する天狗の文芸史。