
【秋の季語=晩秋(10月)】行く秋(逝く秋)
「晩秋」となっても晴れた日は過ごしやすく、草花もまだ咲きとどめ、「紅葉」も目に入る美しい秋が過ぎ去ってゆくことには感慨がこもる(=「秋惜しむ」)。
芭蕉の〈蛤のふたみに別れ行く秋ぞ〉のように、別れのような淋しさが、肌寒さと重なる季節の変わり目。
【行く秋(上五)】
行く秋や抱けば身にそふ膝頭 太祇
行く秋の鐘つき料を取りに来る 正岡子規
逝く秋のからくれなゐの心意気 桂信子
ゆく秋や流れのごとく帯を解き 河野多希女
行く秋の水の真澄は空ならず 小澤克己
秋がゆく画鋲の痕をふりまいて 渋川京子
行く秋の吐く息くちびるよりぬくし 池田澄子
逝く秋のおわらほとけとなりたまふ 朝妻力
行く秋の忘れられたる誕生日 滝口滋子
行秋や木洩れ日を掃く竹箒 佐橋嘉美
行く秋や封書に足りぬ切手貼る 本土彰
行く秋や今ごろ京都はキツネ色 三宅やよい
【行く秋(中七)】
ペンキ屋の行く秋を塗る作業小屋 松原藤吉
【行く秋(下五)】
たましいに遅れて杖の行く秋の 橋本直
【その他の季語と】
行秋のとんぼにとまるとんぼかな 矢島渚男