また一人看取の汗を拭いて来し
三島広志
掲句が収められた句集の序文で、黒田杏子が夏井いつきを「日光菩薩」とするなら、三島広志は「月光菩薩」だと書いている。
ふたりはほぼ時を同じくして句縁を得たが、夏井がいかなる理由から「日光」かは、誰もが知るとおり。
一方、三島の句集には、寡黙な言葉のなかに、深い感情が閉じ込められているような句が並ぶ。
鍼灸や指圧を生業とする作者だが、在宅で看取り介護をされていた患者の最期だろうか。
「また一人」という言葉で、死と向き合うことが日常的な職業にささやかな、つまり太陽ではなく月ほどのひかりを当て、決してそれを美化することなく描く誠実さが感じられる。
『天職』(2020)所収。(堀切克洋)
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